時の記憶——約束
月原 悠(夕月かんな)
ひかり
序奏~第1話 かがやき
序奏
「すみません、ベンチに座りたいのですがどこにありますでしょうか」
「ああ、こっちだよ。おじいさん大丈夫?」
「はい」
「ここだよ」
「ありがとうございます」
「年だけはとりたくないな……」
「そうだな、見ろよ。あのよぼよぼした歩き方、身なりはしっかりしているけど、たぶん、認知症とかあるんじゃないか」
「そうだな」
第一話 かがやき
青い世界に白い線がつらなっていた。蕾たちは花を咲かそうとしていた。
「美鈴さん、日本軍の活躍が素晴らしいよ」
「これなら、戦争はきっと勝ちますね」
「ああ、そうだね」
「はい」
二人の喜びの表情とは異なり、日本は太平洋戦争にて、敗戦の色が濃く映し出され始めていた。時は二人をどのように導くのだろうか。
「美鈴さん、そういえば、美鈴さんに内緒にしていたことがあるんだ」
「何をですか?」
「小遣いを貯めて自転車を買ったよ」
「そうなんですね。高かったのではないですか?」
「ああ、しばらく、小遣いは無しさ。でも、新品でかっこいいだろう。後ろに乗ってみない?」
「いいのですか、ぜひ。素敵な自転車ですね」
自転車は二人を祝福するかのように輝き放ち、その時はどこまでも続くようであった。
「そうだろう。大丈夫? ちゃんと乗れる? ほら」
「ありがとうございます」
「いいよ」
「風が爽やかですね」
「頬を優しくさせるね」
「はい」
お母さん、お水が飲みたい……
———
「前から、美鈴さんと一緒に乗りたかったんだ」
「嬉しいです。でも、明さん身長も高いですしハンサムですから、あまり女性と仲良くしないでください」
「美鈴さんこそ、きれいだから、今日は今からどうする?」
「どこか連れていってください」
「いいよ、どこに行く?」
「そうですね。海を見に行きたいです」
「いいね、そうしよう。高校の近くに海があるよね」
「はい。行きたいです」
美鈴さん。生きて帰れないと思うと辛い———
「よいしょ、よいしょ」
「キャ、揺れます」
「大丈夫だよ。着いたよ。ほら、白い波がきれいだね」
「本当にそうですね」
「まるで僕たちを歓迎しているみたいだね。浜辺を走ってみない」
「いいですね」
「あそこの松の木まで、どちらが早く着くか競争しよう」
「はい。でも、明さんは足が速いから……」
「大丈夫だよ。手加減してあげるから」
「本当ですか?」
「ああ」
お母さん、どうしたの? 返事をして……
———
「そら、行くよ」
「明さん足が速いです。置いていかないでください」
「ハハハハ、美鈴さんが遅いからだよ」
「もう、明さん、待ってください」
「ほら、もう着いたよ」
「もう、明さんの意地悪……」
「美鈴さんといっしょにいると不思議な気持ちになるよ」
「どうしてですか?」
「海と美鈴さんが溶け込んでみえる。一緒になって見えるよ」
「嘘ばっかり」
「本当だよ。美鈴さん綺麗ですね」
「恥ずかしいことを言わないでください。もう帰ります」
「じゃあ、そんなこと言わないで、座って一緒に話そう」
「はい」
敵空母、発見。いよいよ突撃だよ……
———
「美鈴さんと出会えてよかった。いつまでもそばにいてほしい」
「本当ですか?」
「ああ」
「さっきも言いましたけど明さんハンサムだから、他の女性と仲良くしないでくださいね。怒りますよ」
「もちろんだよ。美鈴さんが、一番だよ」
「ありがとう。嬉しい」
お母さん、朝がきたのね……お母さん少しだけ足が痛いの、薬はないのかしら———
「美鈴さんは好きな人はいますか?」
「そんなこと、聞かないでください。わかっていて聞いているのですか?」
「どうだろう。ハハハハ」
「もう、からかわないでください。好きな人がいればこのように、明さんの自転車に乗ることはありません」
「ありがとう」
「いえ……」
怖いよ。美鈴さん……
———
「美鈴さん」
「はい?」
「キャ」
「初めて手をつないだね」
「そんな恥ずかしいことをしないでください」
「幸せでたまらないんだ」
「明さんの手は温かい」
「そうかな」
「はい」
明さん、生きて帰ってきてください……
———
「今度は自転車を美鈴さんが乗ってみる?」
「わあ、いいですか?」
「僕が後ろに乗るから」
「ええ……重くて運転ができないかもしれません……」
「試しに乗ってみようよ」
「はい」
「ほら、左右に揺れているよ」
美鈴さん……
———
「キャアー、もう、明さんが重いから」
「そうかな、美鈴さんの方が重いと思うよ」
「怒りますよ」
「ハハハ、こわいな」
「キャ、倒れた」
「大丈夫?」
「大丈夫です」
「よかった。そこに座ろうか」
「はい」
明さん……
———
「美鈴さんは得意な科目は何?」
「う~ん、数学かな」
「僕は国語だな」
「わかります。時々詩人みたいなこと言うから、かっこつけですよ」
「そうかな? さっき美鈴さんが言ったように詩人と言ってほしいな。かっこつけはよしてほしいな」
「いえ、かっこつけです」
いつか必ず会おう……
———
「それより、ほら両手を、つなごうか」
「今度は両手ですか? どうしてですか?」
「いいから。ほら」
「キャ」
「回らないでください。目が回るじゃないですか?」
「え……」
「ごめんね抱きしめてしまった」
「初めてです。突然そんな事をしないでください」
「ドキドキした?」
「はい。恥ずかしいです。でも、今度は私から」
「大胆だなあ」
「明さんが先じゃないですか。明さんが悪いです」
「じゃあ……」
「だめ……」
……
「恥ずかしかったかな?」
「もう帰ります」
「そんなに嫌だった?」
「もう、意地悪……」
「一緒に帰ろう。また、僕が運転するから、しっかりしがみついてね」
「はい」
あのノコギリでお願いします……
———
「明さん。今日のことは忘れません。でも、どうせ美鈴の事は忘れるんでしょうね?」
「僕も生涯、忘れないよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「約束ですよ」
「うん、もう一回海に行こうか」
「はい。何をするんですか」
「忘れ物を拾いに」
「忘れ物は何ですか」
「君のぬくもりさ」
「また自転車に一緒に乗ってくれる?」
「はい」
吉田明 十八歳
藤井美鈴 十八歳
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