【おまけlima】 最強 vs 最狂

【三日前】


 小雨さんの家の玄関に“置き配”のダンボールがあった。名は俺宛て。

 通販で注文した品が届いたようだ。

 家の中へ持ち込み開封してみると、それは新型の護身用スプレーだった。


 おぉ、ようやく届いたか!


 最強クラスの熊撃退スプレー!

 アメリカ森林警備隊採用品らしく、しかも正規輸入品!


 15,000円もしちまったが、使う日が必ず来る。

 小雨さんを守る為なら安い買い物さ。



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 ――そして今、最強クラスの熊撃退スプレーは俺のポケットに隠されている。


 ナイフを向けてくる溝口に対し、俺は反撃でスプレーを使おうと思ったが――距離が近すぎる。

 ギリギリで回避して少し距離を開ける。



「…………あっぶね!」

「チィ! 避けやがったか!」


 悔しがる溝口だが、直ぐにナイフを向けてきた。宮藤先生を引きずったまま。

 早くこの野郎をなんとかしないと!

 やはり早急にスプレーを使うしかないッ!


「霜くん!!」

「大丈夫だ、小雨さん。周囲を照らしてくれていると助かる……!」

「う、うんっ」


 小雨さんはライトで視界を確保してくれていた。こんな暗闇の森で明かりを失えば、溝口を見失って逃げられる恐れがある。

 そうはさせない。


 一発でもブン殴ってやろうと俺は拳を構える。



「相良ァ! 相良!! それで構えているつもりかぁ!?」



 ブン、ブンっとナイフが容赦なく迫ってくる。

 危うく刺されそうになるが、溝口も暗闇に慣れないせいか命中はしない。俺も必死になって辛うじてかわしていた。完全に運がいいだけだ。


 でも、このままでは刺されてもおかしくはない。

 いつ心臓を一突きにされるか分かったもんじゃない。


 くそっ、それだけは避けたい。

 俺だって死にたくはないんだ!


 せっかく小雨さんとの同棲生活が始まって幸せだっていうのに、溝口は毎度毎度……俺たちの邪魔をして、もう頼むから刑務所から出てこないでくれ!


 俺はハッと思い出した。

 そういえば、映画やドラマでシャツを使って相手のナイフを無力化するシーンがあった。あれをやってみるか!


 急いでシャツを脱ぎ、俺は上半身裸に。



「……おっりゃああああっ」



 シャツを飛ばし、溝口の腕に絡みつく。



「――んなッ!?!?」



 さらにグルグル巻きにしていく。


 ――その前に。



「くらえええええええええええ!」


「なに……ぐふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」



 右ストレートをお見舞いし、見事に溝口の顔面に命中。だが、ヨロッとするだけで溝口は直ぐにナイフを乱暴に振るう。


 一瞬、俺の胸元に掠める。



「……ぐっ」



 わずかに出血。……痛ぇ。




「霜くん!」

「相良くん!!」



「大丈夫だ、小雨さん。古瀬刑事も!」




 ちょっとかすっただけだ。幸い、命に別状はない。

 だがもうすぐで心臓を刺されるところだった。……本当に危なかった。


 ……そうだ。今の俺、ベルトもしているじゃないか。


 使えるものは全部使う。


 ベルトを外し、ムチにする。



「溝口、これを喰らいやがれ!」



 鞭にしたベルトで溝口の顔面を打撃。バチンとヒットすると、溝口は絶叫してもだえていた。



「うぎょおおおおおおおおおおおおおお!!」



 こんな上手くいくとは我ながら恐ろしいぜ。

 特別鍛えていたわけでもないんだが、普段アクション映画とか見るせいかな。


 今ならスプレーも効くはずだ。


 俺はポケットから取り出し、構えた。



「これで最後だあああああああああああああああああ!!」


「ま……まさか、やめろ……やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 最強クラスの熊撃退スプレーをふりかける俺。


 物凄い勢いでスプレーは溝口に命中した。



「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、痛ぇええええええええ、があああああああああああああああああああ死ぬ死ぬしぬうううううううううう…………!! あべべべばばばばああああああああああぎゃぎゃぐがあああああああああああああああぶうぇえええええええええべろべああああああああああああぁぁぁぁっっ。どぶええええええええええええええええええええあええれうぇえええええああああああああぁぁぁべああああああああああああああああああああ!!!!」



 ・

 ・

 ・



 溝口、撃破。



【続く】






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