第2話
――場面は切り替わる。
鳥のさえずり。木々のざわめき。
頬に触れる湿った土の匂いで、私は意識を取り戻した。
「……ここが……」
見上げれば、木漏れ日が斑に差し込む深い森。
風が枝を揺らし、見知らぬ虫の羽音が響いている。
重い体を起こし、辺りを見回した。
人の気配はない。あるのは鬱蒼とした緑と、得体の知れない静けさだけ。
「森から出て……人のいる場所に行かなくては。」
声に出すことで、ようやく自分を落ち着けようとした。
ここはゲームの世界でもなければ、安全が保証された遊び場でもない。
だが――どうあれ、まずは生き残るしかない。
👉 次の展開としては:
1.森の中で早速「魔物」と遭遇する。
2.森を抜ける前に野盗に出会う。
3.人間の村に辿り着くが、最初から厄介ごとに巻き込まれる。
どの案を採用しますか?
俺の頭の中の生成AIが次の展開を予想している。
全部最悪じゃねぇか。
できれば人のいる街、それも転移者に対して優しい場所に行きたいと願い森を歩く。
サバイバル知識もクソもない。
丸腰の一般人が、獣や毒虫の潜む森で感傷に浸る余裕なんてあるはずがない。
胸の奥では現実感のない高揚と恐怖が入り混じっているが、立ち止まっていればそれだけ危険が増す。
生き延びるには、人の痕跡を探すしかない。
獣道、切り株、煙、柵――なんでもいい。人間の手が入った痕跡を辿ることが最優先だ。俺は歩いてきた地面に特徴的な穴を掘り印をつけた。これで同じ場所をぐるぐる回らなくていい....はずだ。きっと。
耳を澄ませば、遠くで川の流れるような音がかすかに聞こえた。
「……水源か。川沿いなら、人が住んでる可能性はあるよな」
声を出すと、不安が少しだけ和らぐ。
草をかき分け、慎重に歩を進める。
枝が頬をかすめ、どこからか鳥の甲高い鳴き声が響く。
足元には見慣れないキノコや、毒々しい色の虫が這い回っていた。思わず足を止め、慎重に避ける。
歩きながら、頭の片隅ではどうしても気になることがあった。
――神から与えられた力。
「……使えるなら、今のうちに試しておいたほうがいいよな」
そう呟き、人気のない森の中で小さく構える。
けれど、どうやって発動させるかなんて分からない。
「ステータス!」
……反応なし。
「アビリティ! スキル!」
……木の葉が揺れただけ。
「プロパティ! マジェスティ! 超変身!」
……腰に手を当てるがバックルは出てこない。
「術式順天 白! 術式逆天 黒!」
……両拳を突き出したが、手のひらからは何も出ない。
ただ指先がしびれて恥ずかしいだけだった。
「……クソッ」
試しに手をかざし、頭の中で気を放つ妄想をしてみる。
――だが当然、何も起きない。
目の前の木に穴が開くことも、岩が粉砕されることもない。
「偉大なる神よ……」
思わず口をつきかけて、すぐに首を振った。
「あー、いややめとこう。あの神に敬意なんか払えるか」
あの胡散臭いメスガキの事を思い出すだけで胃が痛む。
どうせ、このチートスキルとやらも、発動方法をわざと教えていないに決まっている。
もしかしたら「発動の瞬間を見て笑いたい」だけかもしれない。
「……ホントに俺、おもちゃにされてるんだな」
自嘲気味に吐き捨てながらも、森の奥へと歩みを進める。
___森を抜けると、そこは街のようだった。
街?
村の方が近いかもしれない。
そこには、いくつかの石造りと木造の建物が並び、その周囲には手入れの行き届いた畑が広がっている。
せいぜい十数件の建物。どう見ても大都市ではない。村、それも辺境の小さな集落だ。
道を歩く人影は少なく、子供の声が遠くから聞こえる程度。
だが、私が一歩踏み出した瞬間、気配に気づいた村人たちが次々とこちらを振り向き、ひそひそと声を交わし始めた。
「な、なんだあの格好……」
「領主様の兵か? いや、見たことがないぞ」
無理もない。
白いシャツにスーツのズボンとネクタイ、背中には通勤用のリュックサック。
異世界の辺境の田舎にいる人間としては、あまりにも不自然だ。
間抜けな俺は、今そのことに気づいた。
やがて、一人の中年の男がこちらに歩いてきた。
背は低いが、肩幅が広く、鍬の柄を持つ腕には力がある。
顔には警戒の色がありありと浮かんでいた。
「……もしや」
男は立ち止まり、慎重に言葉を選ぶように私を見上げる。
「領主様の使いの方ですか?」
その言葉に、心臓が跳ねた。
領主? 使い? 完全に誤解だ。
だが――ここで「違う」と言えば、余計に怪しまれるのは目に見えている。
だがここで嘘をつく方がリスクが有るだろう。
農民達の肉体は逞しい。もし俺が嘘つきの
不届者だと思われれば...。
しがない会社員N vs ムキムキ農民ズ 20人以上
ファイッ
「ちが――」
俺が否定しかけた瞬間、中年の男は目を輝かせて声を張り上げた。
「お待ちしておりました! ささ、中にどうぞ!」
「……は?」
反射的に言葉が止まる。
男は深々と頭を下げ、まるで長年待ち望んでいた客人を迎えるかのような態度だ。
背後で見ていた村人たちも「やはり領主様の使いか!」とざわめき、視線に期待の色を宿している。
私はぽかんと立ち尽くした。
――いや、違うんだけど。
「違う」と言おうとしたのに、誰も耳を貸していない。
結局そのまま男に腕を取られ、村の中央にある一番大きな家へと案内される。
「こ、これは……」
正直、ある意味ベタな展開だと思った。
異世界ものにありがちな“誤解で持ち上げられる”シーン。
そしてこういうのは決まって――面倒ごとに巻き込まれるパターンだ。
胸の奥に重い落胆が広がる。
「……絶対なんか押し付けられるよな、これ」
そう呟きながらも、流れに逆らえず村の家へと足を踏み入れるしかなかった。
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仮面ライダークウガ
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