第8話 冤罪
SD大会の予選リーグを勝ち上がり、決勝トーナメントへと駒をすすめたエーフォース。普段の練習にも熱が入り、練習後に残ってスキルレベルを上げるメンバーも増えた。
「それじゃ、今日はここまで! 決勝トーナメントは明日! あまり無理をして体を壊すなよ! それじゃ残ってスキルの練習をするもよし、さっさと家に帰って休憩するもよし! だが、決してダンジョン外で会わないこと! チームエーフォースは恋愛禁止! それじゃ……」
「リーダー! ちょっと待ってくれ!」
いつもの挨拶で練習を締めくくろうとしたリュウの言葉を、ギルバートが遮った。
「どうしたギルバート」
「ちょっと、言いにくいんだけどよ……」
言いながらギルバートが俺を一瞥する。嫌な感じだ。
「少し前にチームに入ったルーナから、誰かにストーカーされているっていう相談を受けたんだ。まぁ、相談を受けたのは俺じゃなくてユリシアなんだけどよ」
視線がユリシアと、その隣にいるルーナへと集まる。ルーナがおびえるようにその体を腕で抱き、ユリシアが労わるように肩に手を置いた。
「ルーナは最近、視線を感じると言ってましたわ。そしてそれは、ダンジョンの中だけじゃなく、ダンジョンの外、リアルでも。信じたくないけど、悪質な行為を行う人この中にいますわ」
メンバーがざわめいた。
「ユリシアにそのことを聞いてから、チームメンバーを観察してたんだ。いつ誰がダンジョンを出ているのか、視線や動きの怪しい奴がいねぇか。それで……いや、まちがいかもしれねぇけど、でも、一応言っておく」
ギルバートが気まずそうに、言いづらそうにしながらも俺を指差していった。
「どうにも、トーヤが怪しいんじゃねぇかってさ」
一斉にこちらに向けられる視線。沈黙が下りた。
最初に口を開いたのはリーダーのリョウだった。
「ちょっと待って欲しい。もしトーヤが本当にストーカー行為をしているのであれば、もちろんそれは許されることじゃない。だが、確証も無しにそういうことを言うのは良くない。この話はいったん当事者であるユリシアと俺で一度話し合ってから……」
止めようとするリュウを無視してギルバートが続ける。
「おかしくねぇか? 最近トーヤは練習後にいつも残って
「……99.5%だ」
「ほら、おかしいだろ? 決め技ならまだしも、発動しなかったらかけなおせばいいだけのスキルの熟練度を、わざわざ90%以上にする必要なんてないだろ。なぁ、練習後に隠れて何をやってたんだ? ルーナの後をつけていたんじゃないか?」
「そんなことはしていない」
「それによ、最近練習後に持ち物がなくなるって言ってたぜ。ルーナ、何がなくなるんだっけか」
俺の否定も無視し、ギルバートがルーナに問いかける。
「えっと、その、何回か飲み物がなくなってて……今日も、紅茶が……」
ルーナがちらりとこちらを見た後に、すぐに視線を逸らす。
「ギルバート。聞いてくれ。まずは当事者だけで……」
リュウが再度、場を収めるために声を上げる。しかし、それは途中でユリシアの叫び声にかき消された。
「こんなチームで、安心して練習なんてできませんわ!」
涙まで流しながら、震える声でユリシアは言う。
「わ、私もリップがなくなったことがありますわ……。最初は気のせいだって、そんなことをするメンバーがいるはずないって自分に言い聞かせてましたわ。でも、でもやっぱりこわい! 二回なくなって、確信しましたわ。いるんですの、この中に。そして、それは……」
恐ろしいものを見るように、ちらりちらりと俺を見るユリシア。
ばかばかしい。そう一蹴しようと思ったが、他のメンバーも疑義の視線を向けてくる。
「ちょっとぉ。アタシの荷物は無くなってないんだけどぉ。トーヤちゃん、私のも盗みなさいよぉ」
場違いな声を上げたのは、筋骨隆々の身体にフリフリのメイド服を来たゴツイ男、吟遊詩人のハーモニィだ。オカマがロールプレイなのか素の彼なのかは定かではない。
彼なりに茶化して場を収めようとしてくれたのだろう。しかし、ハーモニィのそれは失敗に終わる。この緊張した空気を壊すには至らない。
「なぁトーヤ。盗ってねぇってんなら、荷物、確認してもいいよな?」
ギルバートの問いに首肯する。これで俺の荷物に何か入っていたのなら、確定だ。そういうことだろう。
「このリュックだよな? 開けるぜ」
ギルバートが俺のリュックを開け、中に入ってるものを取り出す。
財布、スマホ、鍵に、お茶。そして……
「あっ」
小さくルーナの声が漏れる。紅茶のペットボトル。
ルーナが崩れ落ち、顔を覆って泣き始めた。
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