第4話 英雄アルト爆誕


4話 英雄アルト爆誕


「アルト! ねぇアルト!」

誰かに揺すられて、俺は目を覚ました。


……柔らかい? 視界に映るのは、エリカの顔。

しかも膝枕されているではないか。


「っうわぁぁ!? なんで膝枕なんだよ!」

「なんでって、倒れてたからに決まってるでしょ!」

エリカは呆れたように眉をひそめる。


治癒士イリスがそっと診る。

「特に病気や異常はないみたいです。ただ、魔力の消耗も見られませんね……?」


ゴカラがドシンと立ち上がり、前方を指差した。

「おい、アルト。お前……四天王を倒したのか? あれを見ろ!」


そこには、半壊した骸骨杖と、溶け落ちた屍兵の残骸。

中心には、黒衣をまとった男――四天王アリアンの死体が転がっていた。


アルト「え、え……?」

エリカ「え、えええ!? 無自覚に倒してたってこと!?」


アルトの頭は混乱で真っ白だった。記憶がない。

自分が四天王と戦った覚えなんて、どこにもない。


――翌朝。


ラジオ放送が街中に響いた。

『速報です! 超天派の勇者アルト氏が、魔王軍四天王アリアンを撃破しました!』

『現場に残された死体は確かにアリアン本人。勇者アルト氏は、記憶がなくなるほど壮絶な戦いを繰り広げたものと推測されます!』


街中がざわめく。

「やっぱりアルト様だ!」

「四天王を一晩で……!」

「英雄だ! 新しい英雄が生まれたぞ!」


アルトは頭を抱えていた。

「いやいやいや! 俺、戦ってないから! 本当に覚えてないんだって!」

エリカはニヤニヤしながら肘でつつく。

「謙虚だね~英雄様?」

イリスはうっとりと目を細める。

「命を懸けて戦ったから記憶が飛んだのね……素敵……」

ゴカラは豪快に笑う。

「ハハハ! これで俺も英雄パーティの一員だな!」


否定すればするほど「謙虚すぎる英雄」と持ち上げられていく。

アルトの困惑は深まるばかりだった。


――そんな大騒ぎを、少し離れた場所から眺める影があった。

送迎士アダだ。


支部で今日の帳簿を閉じ、魔馬車の点検を終える。

ギルド長に出発予定を報告すると、ただ静かに仕事へ戻っていった。


「……さて、今日も遅れゼロでいくか。」


街は「勇者アルト」の話題で持ちきり。

だがアダにとっては関係ない。

彼の任務はただ、冒険者を安全に運ぶこと。


誰も知らない――昨夜、四天王を倒したのが誰だったのかを。



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