22 将来はこうなりたい

「今日は湊くんと食べないの? はなびちゃん」

「ううん……。うちに連れてくるつもりだったけど、断られた……」

「えっ? そう? 喧嘩でもしたの? そういう人には見えないけどぉ」

「うん……。喧嘩はしてない」


 風邪をひいた日のことをいまだに忘れられない。

 そして結婚するならやっぱり湊くんがいいとそう思った。ずっと甘えてたからきっと面倒臭かったはずなのに、何も言わず黙々とお粥を作ってくれたし、彼氏みたいにずっとそばにいてくれたから———。


 そういうところがめっちゃ好き!

 幼い頃にもそうだったけど、高校生になっても気遣ってくれるからめっちゃ好き!

 早くうちに連れてきてベッドに押し倒して上に乗りたい! きっと可愛い顔をすると思う。ドキドキする!


 そして……、そのためにめっちゃ可愛い下着を買ったのにぃ!!! うちに来ないなんて!!!

 ずっと期待していた私がバカみたい。


 それにお母さんも「湊くんならいいよ」と言ったから、心配することは何もないのにね。湊くんは私の話に従えばいいのに、どうして距離を置くんだろう。確かに中学生の頃には私がいろいろ試して距離感ができちゃったけど、それを取り返すために何度もアピールをした。でも、無駄だった。


 どうして!? 普通の男子なら普通にいいよって言うと思うけど、湊くんは何もしてくれない! いつも避けている。


「お母さん……」

「うん?」

「湊くんが何を考えているのか全然わかんない」

「湊くんね……。でも、はなびちゃんが余計なことをしたから———。あっ、ごめんね」

「それは知ってる! むっ!」

「とはいえ、湊くんよりいい人はいないと思う。あの子、幼い頃からずっとはなびちゃんのそばにいてあげたじゃん。はなびちゃんはいつも湊くんを置いてどっかに消えちゃったけど」

「くっ……!」

「お母さんはいつも応援してるよ? はなびちゃん」

「うん……」


 夕飯を食べた後、ベッドでスマホをいじる。

 今頃、湊くんは何をしているんだろう。夜の九時半、湊くんの何もないプロフを見てしばらくぼーっとしていた。


 すぐ隣に住んでいるのに、すごく遠いところにいるような気がするのはなぜだろう。


(はなび) 湊くん。


 そして最近ずっとアピールをしたからかな? 一人になるとすぐ寂しくなる。

 そのままラインを送ってしまった。


(湊くん) 姉ちゃんにアイス取られて部屋でぼーっとしている。


 即答!


「ぷっ、そうなんだ。月さんにアイス取られたんだ。可愛い!」


(はなび) 暇ならうち来る?

(湊くん) 今から?

(はなび) うん! ダメ?

(湊くん) いや、別に構わないけど、俺が行ってもいいのか? 望月さんが休んでいるのに邪魔するのもあれだし。

(はなび) お母さんは湊くんのこと大好きだから大丈夫! そしてうちにアイスたくさんあるからね、私のあげる!

(湊くん) とても良い条件だと思います。今すぐ行きます。

(はなび) はいはい♪


 湊くんの好きなチョコミント味のアイスクリーム、小学生の頃にはなんでこんな変なアイスを食べるのか分からなかったけど、知らないうちに一番好きなアイスになってしまった。湊くんのせいかも……。


 私も食べたくなった。アイス。


 ……


「美味しい?」

「うん、美味しい……。バニラもチョコミントも全部姉ちゃんに取られたからさ……。ドラマを観ながら全部食べたよ! 姉ちゃんが!」

「あははっ、可愛い。あっ、それ私も食べたい! あーん」

「えっ? でもぉ」

「うるさい! あーん」

「はい……」


 どう!? 間接キス! ドキドキするよね? 湊くん!

 ずっと我慢していたからかな? なんかこの場ですぐ襲いたい衝動が湧いてくる。

 でも、湊くんの前だから精一杯我慢していた。


「おいひい〜」

「うん……」

「せっかくだから今日うちに泊まって!」

「ああ! そろそろ帰ろっか! こんな時間に女の子の部屋にいるのもあれだからさ!」

「ふーん、そうなんだ」


 無視してすぐ湊くんの膝に座った。

 そして両手でシャツを掴む。そうはさせないよ。


「はなび……? えっと、俺帰らないと……」

「うん、知ってる」

「なのに、どうして膝に座るんだ?」

「これがいいの」

「そうか」


 いい匂いがする。多分月さんの匂いだと思うけど、私この匂いが好き。

 このシャンプーの匂い癖になるかもしれない。

 そのままぎゅっと湊くんを抱きしめた。


「ちょ、ちょっとはなび! 望月さんにバレるかもしれないからこんなことしない方がいいと思う」

「嫌なの?」

「えっ?」

「嫌なの? 私にこんなことされるの嫌なの?」

「べ、別に……」

「私は湊くんのためにエッチな下着も買ったのに……、湊くんはぎゅっとしてくれないし、キスもしてくれないし。ああ、悲しいな〜」

「じゃあ、俺も……ぎゅっとしてあげるから」

「うん! へへっ」


 やばいやばいやばいやばいやばい、これめっちゃいい。

 抱きしめられてドキドキする湊くんの鼓動が感じられてすっごく気持ちいい。そしてちらっと湊くんの顔を見た時、真っ赤になっていた。


 やっぱり、ずっとこのままでいたい。


「はい。これで終わり」

「ええ! 私、涙出そう」

「はあ!? な、何をしたらいいんだ? 俺は何をしたら……! はなび」

「じゃあ、今日はうちに泊まって。お母さんに今すぐ言ってくるから」

「さすがにそれは無理だろう」

「いいよ! 布団持ってくるからちょっと待ってて」

「……えっ!? ちょっ!!」


 お母さん、外で聞いていたんだ。


「聞いたよね? そして今日はうちに泊まるよね?」

「ああ、そういえば姉ちゃんに頼まれたことがあってさ」

「嘘」

「ほ、本当だよ! ここでアイスを食べた後、すぐそれを買いに行くつもりだったから」

「何? 言ってみ」

「バス用品……」


 月さんに頼まれたことなら仕方がないけど、このまま帰らせたらすぐ自分の家に行くかもしれない。だから、月さんに電話をかけた。

 このチャンスは二度と来ないかもしれない!


「月さん! ちょっと聞きたいことがありますけど! 電話大丈夫ですか?」

「……は、はなび! ちょっと!!!」

「はい!」


 一応、嘘はついてない。


「実は湊くんがうちに来てますけど、今日うちに泊まる予定なので借りてもいいですか?」

「姉ちゃん! それ必要だったよな? 名前よく分からないけど、とにかく姉ちゃんの好きな香りの———!」

「はい! はい! 分かりました! ありがとうございまーす」

「…………」

「月さん自分で買いに行くから気にしなくてもいいって、えへへっ」

「姉ちゃん!!! どうしていつも俺の味方になってくれないんだよぉ!!! どうして!!!」

「というわけでよろしくね! 湊くん」

「…………」

「そうだ。パジャマ持ってくるから!」

「布団ここに置いておくね〜」

「ありがとう! お母さん!」


 ……


 夜の十一時、電気を消してすぐ湊くんの隣に行った。


「どうしてここに来るんだよぉ」

「懐かしいよね? 幼い頃にはこんな風にくっついて寝てたじゃん」

「それはそうだけど、今は高校生だから」

「ねえ、湊くん」

「うん?」

「私ズボン履いてないの」

「…………」


 しばらく静寂が流れる。どうやらさっきの話にショックを受けたみたいだ。

 そしてすぐ距離を取ろうとする湊くん。


「どこ行くの? 今日は一緒に寝るんだよ? あの時みたいに」

「いや! ベッドで寝るんじゃなかったのか! はなび!」

「そんなこと言ってないけど〜」

「く、くっつくなぁ! そんなにくっつくと恥ずかしいところが触れるだろ!」

「ふーん、触りたい?」

「んなわけねぇだろ!」

「あははっ、嘘〜。ちゃんと履いてるから心配しないで」


 反応が可愛くてすぐ湊くんに抱きついた。

 やっぱり、からかうの面白い! 照れてるところも可愛いし。

 そして薄暗くてよく見えないけど、私たちの姿勢がめっちゃエロい。男子の体に足を乗せてぎゅっと抱きしめている。もし湊くんにやる気があったら、この場ですぐ襲われたかもしれない。


 私、今すごくドキドキしていてやばすぎる。

 一線を越えるの? 私たち。今日……。


「ねえ、私のこと好き?」

「……い、いきなり!?」

「うん。二人っきりだからね、お母さんも寝てるし」

「だから、はなびも早く寝ろ!」

「答えてくれるまで寝ないからね!」


 そのままさりげなく湊くんの体に乗っかった。

 この景色……、悪くない。


「ちょっと……」

「好き?」

「分かったよ! 答えればいいじゃん」

「ふふっ、好き?」

「そう! 好きだよ、はなびのこと」

「ふーん、そうなんだ」

「なんで笑うんだよぉ、聞いたのはそっちだろ!?」

「反応が可愛いから、ふふっ。そうなんだ。私のこと好きなんだ〜」

「う、うるさい!」

「ふふふっ♡」


 やっと「好き」って言われた。


「じゃあ、話した通り答えてくれたから私は寝る! おやすみ!」

「お、おやすみ……」


 実はすぐそばで寝たかったけど、そうしたら明日遅刻するかもしれないからベッドで寝るのことにした。一線を越えるのは付き合った後にすることにした。

 チャンスはまたあるからね。

 これで湊くんは私のもの……。

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