5 週末は月さんと

「はあ……、やっぱりはなびちゃんと甘いものを食べると癒される。それにこのケーキもすごく美味しいし」


 日曜日の午後一時、私たちは今繁華街にある有名なカフェに来ている。

 月さんとは幼い頃から仲が良かったし、いろいろアドバイスもしてくれるから、よくこんな風に二人っきりで甘いものを食べる。青柳くんもここにいたらいいのに、そうなるまでは時間がけっこうかかるような気がして悲しかった。


「よかったですね、つきさん。そうだ! 大学はどうですか? 楽しいですか?」

「大学……」


 すると、コーヒーを飲んでいた月さんが笑みを浮かべた。

 でも、怒りを我慢しているように見えるのは気のせいかな? どうやら大学でいろいろあったみたいだ。月さん程度綺麗な女性ならきっといろいろあったはず。


「一体……何回断れば私の話を理解してくれるんだろう、本当にうざい! いつもいつも声をかけて、面倒臭いよ! はあ……」

「お、落ち着いてください……。あ、あの! 私のいちご食べますか?」

「ありがとう……」

「はい。あーん!」

「あーん」


 月さんは青柳くんと同じく冷たいイメージだけど、意外と可愛いところがあって、私はそれを知っている。子供の頃には月さんみたいなクールな女性になりたかったけど、どれだけ努力しても私には無理だったからすぐ諦めた。


 私には真似できない存在。


 黒髪ロングに透き通るような白い肌、そして鋭い目つきがすごく魅力的な女性。

 それに私と違って身長も高いし、道で歩いている月さんを見るとモデルかなと思ってしまうほど美しい人だった。青柳くんもそんな月さんとそっくりだから身長が高くてカッコいい。


 そして月さんは私の恩人でもある。

 何も知らなかった私に化粧とか、スキンケアとか、いろいろ教えてくれたから。

 私が可愛くなったのは全部月さんのおかげだ。


「美味しい〜♡」

「よかったですね。ふふっ」

「ねえ、はなびちゃん。私の妹にならない?」

「えっ? い、妹ですか?」

「そう! 妹」

「い、妹になるのは……。えっと……」

「あはははっ、冗談だよ。冗談! 妹になると湊と付き合えないよね? はなびちゃん」


 その話にビクッとした。

 どうして月さんがそれを知っているんだろう、バレないようにちゃんと普通を演じていたはずなのに……。


「どうしてそれを知っているのか気になるの?」

「えっ? あっ、は、はい……」

「あははっ、それは見ればわかるよ。ずっとくっついていたし、中学三年生の頃には急に距離感ができて、はなびちゃんに彼氏でもできたのかなと思っていたけど、いろいろ試していたよね? 湊に告られるように」

「ど、どうしてそこまで……!」

「ふふっ」


 笑みを浮かべている月さんは、私が今までこっそりやってきたことを全部知っているように見えた。ということは———。


「あっ。でも、湊は知らないから安心して」

「そ、そうですか?」

「私は二人に興味あるけど、二人の関係に関わったりしないから。でも、湊がバカなことをしたらはなびちゃんの代わりに殴ってあげる。いつでも連絡して」

「あっ、はい……」


 そのまま静かにケーキを食べていた。

 月さんが鋭いってことは知っていたけど、そこまで知っているとは……。恥ずかしい。


「あっ、そうだ。はなびちゃん」

「はい!」

「えっと……、湊が変なことしたりしないよね?」

「えっ? 青柳くんはいつもの通りです!」

「そうなんだ」

「どうしましたか?」

「それがね……。こないだ見てはいけないことを見てしまったような気がして」


 見てはいけないこと……? なんだろう、すごく気になる。

 もしかして、青柳くんの裸だったり!? 知らないうちに期待をしている自分に気づいた。


「な、何を……見ましたか?」

「この前に言いたいことがあって湊の部屋に入ったけど、なぜか自分の枕を抱きしめていてね」

「えっ?」

「正確には……、枕にブレザーを着せてぎゅっと抱きしめていた。なんだろう、愛情不足とか、そういうことかな?」

「ブレザーを着せて……。ぎゅっと……」

「そうよ。どういうことなのか分からなくてすぐ部屋を出たけど、もし湊に変なことをされたらすぐ連絡してね」

「は、はい!」


 香水をつけたあのブレザーを……、枕に着せてぎゅっとしたんだ。

 私の知らないところでこっそりそんな可愛いことをしてたんだ。

 やっぱり、青柳くんは可愛い。この世で一番可愛い。いつあの時に戻れるのか分からないけど、早くあの時みたいにくっつきたい。その時が来たらきっといろいろできるはずだからね。


 楽しみ。


「うふふっ」


 思わず笑いが出てしまった。


「そうだ。はなびちゃんは湊のどこが好きなの?」

「えっ?」

「いきなりすぎてごめんね。でも、聞くチャンスあまりなかったからちょっと気になるっていうか」

「どこが好きって言われても……」


 理由は……ないね、私は青柳くんのどこが好きなんだろう。

 それはよく分からないことだった。

 好きだから好きっていうか、自分でも上手く説明できない。


「難しいですね」

「そう? 知らないうちに好きになったってことかな? 幼い頃からずっと一緒だったし」

「そんな感じです」


 そういえば……、こないださりげなく青柳くんのシャツを捲ったよね。

 なぜそんなことをしたのか分からないけど、バスケをして汗をかいたところがめっちゃカッコよかったから体が勝手に動いてしまった。腹筋が見られてすごく嬉しかったけど、恥ずかしくてそのまま逃げちゃったよね私……。


 でも、家に帰ってこっそり私の匂いを嗅ぐなんて、変態だけど好き。

 ぎゅっとしてって言ってもいいのにね、もう……。


「そうなんだ。それにしても湊はなんで何もしないんだろう、こんな可愛い女の子がそばにいたらすぐ告白すると思うけど……。普通の男なら」

「そうですね……」


 私のせいだと言えない。

 きっと、それは私のせいだ。


「私の弟だから、湊と付き合うときっと幸せになると思う。今までずっとそばで見てきたからね。あっ。でも、はなびちゃんの方が私より詳しいかも? ふふっ」

「うっ……! そ、そんなことないです! 私、知らないことばかりです!」

「そう? ふふっ」


 お会計を終わらせた後、ゆっくり家まで歩いていた。


「そうだ、いつ来てもいいから遊びに来てよ。はなびちゃん」

「えっ? い、いいですか?」

「湊もきっと喜ぶからね」

「は、はい……! なんか迷惑だと思って……、えへへっ」

「そんなことないよ、私も可愛いはなびちゃん毎日見たいからね」

「は、はい! じゃあ、毎日行きます!」

「うん!」


 ってことは学校が終わった後、毎日青柳くんと一緒にいられるってこと!?

 そんなこと……、してもいいの? その話にすごくドキドキしていた。


「嬉しそうに見えるね、はなびちゃん」

「えっ!? か、顔に出ましたか」

「出てるよ、顔に。ふふふっ」

「か、からかわないでください! 月さん」

「ふふっ。でも、湊はどうしてこんな可愛い女の子がすぐそばにいるのに何もしないんだろう。分からないね、どれだけ考えても私には分からない」

「えへへっ」


 そういえば私たちラインもあまりしてないような気がする。

 高校生になってからよく話すようになったけど、それでも中学生の頃みたいにラインをするのは無理だった。それにイ〇〇タもしないから、家に行かないと普段何をしているのか全然分からない。難しい問題だ。


 久しぶりにライン送ってみようかな……。

 そのまま青柳くんにラインを送った。


(はなび) ねえ、今何してる?


 そしてすぐ既読状態になってびっくりした。送ったばかりなのに……。


(湊くん) もう少しで家に着くかも。


「あっ! 湊!」

「えっ?」

「あれ? 姉ちゃんと望月さん。偶然だね」

「どこ行ってきたの? 青柳くん!」

「近所のスーパーに行ってきたけど、うち来る? 甘いものとお菓子買ってきたからさ」

「行く!」


 青柳くんの私服姿、いいね。やっぱり月さんの弟だからかな? 

 その場でニコニコしていた。


「ふふふっ」

「な、なんで笑うんだ? 姉ちゃん。怖いんだけっ———!」

「うるさい、湊。まったく……」


 舌打ちをする月さんに慌てている青柳くんも可愛い!


「えっ? な、なんで俺脇腹殴られたんだ!? 姉ちゃん!?」

「しらねぇよ。行こう、はなびちゃん」

「はーい! へへっ」


 今週はいいことばかりで本当に楽しい。


「俺……、変なことでもしたのかな?」


 わけ分からない状況に湊はしばらくその場でぼーっとしていた。

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