夏休み


 どういう経緯だったかは忘れたが、私は小5の夏休みを祖父母の家で過ごすことになった。

 大好きな祖父母と一緒にいられることは嬉しかったし、普段は出来ない虫取りや釣りなどの田舎特有の遊びが楽しかったことを今でもよく覚えている。



 そんなある日、祖父が夏祭りの打ち合わせに出掛けてしまい私は遊び相手をなくしすっかりと暇を持て余していた。

 何もせずに家にいるのも退屈なので納屋から釣り道具一式を取り出すと、外で畑仕事をしている祖母へ声をかける。


「婆ちゃん、山へ釣りに行ってくる」


 近くにある小高い山、その中を流れる川には沢山の魚が泳いでいた。

 いつもは危険だということで祖父と一緒に行っていたのだが、もう5年生なのでそろそろ自分一人で行っても大丈夫だろうと判断したのだ。

 祖母は土いじりの手を止めると、私の方を見て不可解なことを言った。


「そりゃあええよ。じゃけどトモくん、くれぐれもの領域に入らんようにね」


 ショウジョウ様、初めて聞くその言葉に私は首を傾げるしかなかった。

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