私は時間を司るクロノス神の命令でこの時計に常駐してるんです

獅子2の16乗

第1話

「この時計をインターネット時計に?」


 ここは叔父が神父をやってる教会。

 時計塔に設置されている時計はクオーツ式のアナログ時計。

 普通クオーツ式は月に十数秒程度の進み・遅れが出るので、その都度合わせているそうだが、面倒くさいのでインターネット時計にしたい、とのこと。


『そうだ、時刻合わせが面倒臭くてな』

「それはわかるけど、厳かさが失われるのでは?」

『そう言うなよ。神父も意外と雑務があってな』


「じゃ、時計に案内してもらえるかな」

『ありがとう。こっちだ』


 …………


『神父様、お客様がお見えです』

『わかったすぐ行く。すまんが頼むぞ、我が甥にして天才SEよ』

「天才は余計だ!」


 まったくもう……


『冷たいお飲み物どうぞ』

「ありがとう、シスター」


『見学させていただいて構いませんか?』

「いいですけど、面白いものじゃないですよ」

『はい、だいじょうぶです』


 うん、オーソドックスな発振/分周回路だね。

 よし、これをラズパイに交換して、と……



『神父様は時刻合わせがめんどくさいって言ってますが、この時計は2年で1分狂うかどうかなんです』

「そうなんですか」


 ん?


 ちょっと待て、2年で1分ってことは月差2.5秒!?

 温度補償のない回路でその精度はありえない!


“私が歩度ほどを調節してるんですよ”


 え、輪列の歯車から女性? が顔を出した??


「え?」


“私は時間を司るクロノス神の命令でこの時計に常駐してる、神見習いの天女フォティーノです”


『どうしました?』


“私の意識はあなたの大脳言語野と直接つながっていますから、声を出すには及びませんよ”


「あ、すいません、シスター。えーとすごい発振/分周回路だと思って」


“そうですか? 74HC4060バイナリ・カウンタICを使った定番の回路ですよ”


 えっ! ICの仕様がわかるの??


“あー今変なこと考えたでしょ。私も神に近しきもので、とりあえず全能ですので常に知識はアップデートしてますよ”


『どうされました? 黙り込んでしまって』

「あ、申し訳ありません、シスター。ちょっと考え事をしてたものでして……作業にかかりますね」


“割り込みは許しがたいわね。ゼウス様かインドラ様に頼んで雷を落としてもらおうかしら”


“やめてあげなよ。そもそも神性は人間を守護するんだろ”

“冗談よ。この時計塔から見てるといろんな人がいるのがわかるの。それを壊しちゃいけないことぐらいは心得てるわよ”


“そうか、それがいいと思う”


 …………


「よし、これであとは時刻を合わせればできあがり」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る