第6話 指輪

幻影の龍の口から荘厳な声が響いた。

《汝に問おう。汝は何故に力を望む》

「お前は……?」航希が戸惑いながら問いかけた。


《我はシルヴェルの守護龍なり》


エルミナが震えながら言った。

「航希さん……!龍神様です!シルヴェル家の……」

「じゃあ答えてくれ……」航希が静かに言った。

「俺は……この世界で生き残る。そして大切な者を守り抜く!」

《……良かろう。ならば力を貸そう》


龍の幻影が指輪に戻るように吸い込まれていく。同時に指輪の宝石が強く輝き、航希の体に温かい力が流れ込んできた。


「これは……」

指先から青白い雷のようなエネルギーが放出される。まるで導かれるように力の使い方が分かってきた。

「行くぞ!」


ドゴォン!

航希の放った雷撃が教団兵たちを薙ぎ払い、ゼインの顔から余裕が消えた。彼は杖を高く掲げ叫んだ。

「ここまでか……!撤退せよ!」


黒装束の一団が後退を始める中、ゼインは憎々しげに航希を睨み付けた。

「運命の器よ……その力がいずれ我らの糧となることを知れ」


その言葉を残し、教団の姿は闇の中に溶けていった。静寂を取り戻した森で、航希は膝をつき荒い呼吸を繰り返していた。

(この指輪……一体……)



しばらくの間、二人はただ呆然と互いの顔を見つめ合っていた。焚き火の炎が揺らめく中、エルミナの瞳には涙が溢れ、航希は戸惑いと混乱に包まれていた。


「航希さん……」


エルミナが弱々しい声で呼びかける。その声に航希は我に返ったように首を振った。


「大丈夫だ……俺は生きてるよ」


息を整えた航希は指輪を見つめた。先ほどの戦闘の高揚感が冷めていくとともに、新たな疑問が湧き上がる。

「この指輪……一体なんなんだ?」

エルミナが近づき、畏敬の眼差しで指輪を眺めた。

「これは……シルヴェル家の王位継承者に与えられる『守護龍の指輪』です」

「王位継承者だって?」航希は眉をひそめた。

「はい。我々シルヴェル家の末裔は、古の時代に天より降臨した『星影の龍』と盟約を結びました」

エルミナは静かに続けた。

「この指輪は龍神との契約の証。正統な継承者にしか本来の力は発揮できないはずです」

航希は首を傾げた。「じゃあなんで俺が使えるんだ?」

エルミナが金色の瞳を見開いた。興奮と畏怖が入り混じった表情だ。

「それは……恐らくですが……あなたが『選ばれし者』だからではないでしょうか」

「選ばれし者?なんだそれ?」

「伝説では『黒髪黒目の異邦人』こそが龍神の力を引き継ぐ者と言われています」

航希は自身の濡れた黒髪に触れた。「確かに珍しい髪色だけど……それだけで?」

「はい。さらにさっきの雷撃は……明らかに通常の魔法ではありませんでした」

エルミナが航希の手を取った。「この指輪はあなたの魂の波長と共鳴しているのです」

「波長って……どういう意味だ?」

「簡単に言うと……精神状態によって指輪の能力が変わるということです。精神状態によってでる力が違います」

エルミナは指輪に触れないように慎重に解説を続けた。

「この指輪には三つの主な能力があります。一つ目は『防壁生成』」

先程の光の壁を思い出して航希は頷いた。

「二つ目は『龍神召喚』ですが……これは危険すぎて滅多に使えません」

「三つ目は……?」

エルミナが躊躇うように視線を逸らした。

「……『運命干渉』と『死者蘇生』です。」

航希は息を呑んだ。「それって……」

「はい。これらは歴史を変えるほどの禁断の力です。しかし……あなたには制御できるのかもしれません」

エルミナが指輪を指さした。「航希さん……この指輪を通じて龍神様があなたを試しているのです」

航希は重い責任を感じながら指輪を見つめた。「俺にそんな力が……」

「はい。しかし忘れないでください。この力は使い方を誤れば災厄を招きます」

エルミナの真剣な眼差しに航希は頷いた。

「わかった。気をつけるよ」

その時──

ピコン!

航希の頭の中に新たな情報が流れ込んだ。

(『運命視』……『過去改変』……『可能性空間展開』……?)

「なんだこれ……頭に……?」

エルミナが目を丸くした。「新しい能力が開放されたようです!これは……龍神様からの啓示かも!」

航希は混乱しながらも決意を新たにした。

(この力……上手く使えばエルミナを助けられるかもしれない)

「エルミナ、ありがとう。おかげで色々わかったよ」

エルミナが満面の笑みを浮かべた。

「はい!これからも一緒に頑張りましょう!」

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