影の織り手と忘れられた森

第16話 開門

腐敗の海に要塞への道が浮かび、祭壇の光がうねりながら輝いた。

毒沼が低く咆哮し、灰のような酸味が肺を締め、風の刃が肌を裂く。

骨の岩が波の衝撃に軋み、遠くの要塞が紫の光で脈動する。

毒の渋味が舌に絡み、村人たちの祈りが悠太の耳に響く。

彼の胸に、子供たちの笑顔が使命の炎を燃やす。

悠太は結晶を手に持つと、白い輝きが鼓動し、熱い波動が腕を駆けた。

（この道を進み、ゼルヴァスを倒す。村の未来は俺が守る。）

異世界から来た責任が、村の笑顔と共に胸を突く。

（俺はよそ者じゃない。希望を刻む者だ。）

結晶の熱が全身を貫き、決意が心臓を強く叩く。

老女が杖を突き、声に過去の重みを乗せた。

「祭壇は影の脈の終点。外来者の遺物がゼルヴァスの力を増幅する。」

彼女の目が喪失を映し、声に希望が滲む。

（病嵐が村を奪った夜、家族の笑顔が消えた。君たちが私の償いだ。）

杖の光が道を切り開き、祭壇のうねりと共鳴する。

「外来者の装置がゼルヴァスを破壊者に変えた。君たちが未来を築く。」

老女の胸に、崩れた村の記憶が突き刺さる。

（あの夜の無力を越える。君たちの意志を信じる。）

リナが短剣を構え、要塞の光を睨んだ。

「祭壇の波動を制御しないと、門は開かない。急ぐよ。」

彼女の紫の瞳が決意で燃え、過去の傷が胸を締める。

（戦友の「信じろ」が響く。あの夜は一人だった。今は仲間がいる。）

カイが弓を握り、道の闇を貫く視線を投げた。

「妹が死んだ夜、病嵐が全てを奪った。俺はここで終える。」

彼の声に静かな怒りが宿り、弦が軋む。

（妹の「生きて」が俺を動かす。復讐は村の希望だ。）

ミオが波動解析機を手に、鋭い視線を投げた。

「私の技術で波動を捉える。鉄の遺民の過ちは繰り返さない。」

装置の光が瞬き、祭壇のうねりを捉える。

（先祖は仲間を裏切り滅びた。私の技術は未来を築く。）

悠太が結晶を手に、仲間を見渡した。

「門を開く！ 準備しろ！」

毒霧が渦を巻き、ゼルヴァスの囁きが心を刺す。

「お前たちは無力だ。結晶を渡せ。希望は砕ける。」

毒沼の咆哮が耳を劈き、灰の酸味が肺を焼く。

幻影が襲い、村が崩れる光景が視界を埋める。

子供たちの叫び、燃える家屋、村人たちの絶望が胸を抉る。

悠太が歯を食いしばり、結晶を握り潰す勢いで耐えた。

（偽りだ！ 仲間はここにいる！ 村はまだ生きてる！）

村の笑顔が彼の心に決意を刻む。

リナが短剣を振り、双波斬を放った。

紫の刃が毒霧を裂き、幻影を切り刻む。

「悠太、結晶を祭壇に！ 今だ！」

彼女の動きが仲間を鼓舞し、紫の瞳が闇を貫く。

だが、霧影獣四体が現れ、知能を持った目でリナを標的にする。

霧影獣は幻影で囮を作り、実体で鋭い爪を振り下ろす。

リナの肩が裂け、血が道を染める。

「動きが…速すぎる…！」

彼女が膝をつき、戦友の最後の言葉が胸に響く。

（あの夜、仲間を救えなかった。今は仲間がいる…！）

触手型三体が骨の岩を砕き、毒沼を操って足場を不安定にする。

酸型二体が酸飛沫を撒き散らし、地形を溶かし、毒霧を増幅して視界を奪う。

「この毒霧…息ができない…！」

ミオが咳き込み、解析機を握り直す。

（先祖の失敗を越える。仲間を信じるんだ。）

悠太が結晶を掲げ、連鎖刃を放つ。

紫の糸が十二の刃に編まれ、霧影獣を狙う。

だが、霧影獣が幻影に切り替え、刃が空を切る。

「実体を捉えられない！ 波動が乱れてる！」

結晶が熱を帯び、刃が不安定に揺れる。

カイが影貫矢を放ち、霧影獣の実体を射抜いた。

「リナ、俺が援護する！ 動くな！」

矢が毒霧を貫き、触手型の動きを止める。

（妹の「生きて」を果たす。仲間を失わない。）

彼の冷静な射撃が道を切り開く。

ミオが解析機を調整し、波動を追った。

「波動、八割暴走！ 結晶を同期させろ！」

装置の光が強まり、祭壇のうねりが一瞬落ち着く。

（私の技術は仲間と共に活きる。失敗は許されない。）

ミオの目が決意で輝く。

老女が静光術を放ち、毒霧を押し返した。

「リナ、立ち上がれ！ 君の意志は強い！」

杖の光が祭壇を照らし、波動が一瞬安定する。

（私の村は失った。君たちの未来を守る。）

老女がリナに駆け寄り、術で血を止める。

毒霧が爆風を巻き、ゼルヴァスの影の化身が現れた。

黒紫の巨体が道を塞ぎ、毒霧の刃が空間を切り裂く。

「結晶は私のものだ。希望は無に帰す。」

その声が心を震わせ、幻影が仲間を分断する。

灰の酸味が肺を焼き、風の刃が肌を裂く。

霧影獣がリナを再び襲い、爪が脇腹を抉る。

「うっ…！」

彼女が倒れ込み、血が道を赤く染める。

（あの夜の無力感…でも、仲間が…！）

リナの瞳が揺れ、短剣が地面に落ちる。

悠太が叫んだ。

「リナ、俺が助ける！」

結晶を祭壇に近づけ、連鎖刃を放つ。

だが、影の化身の毒霧爆風が刃を弾き、祭壇が軋む。

「刃が制御できない！ 門が崩れる…！」

要塞の門が光を放ち、開門の時間が迫る。

カイが影貫矢を連射し、霧影獣を射抜いた。

「リナ、持ちこたえろ！ 道を開く！」

矢が触手型を仕留め、酸型の飛沫を止める。

（妹の笑顔を守る。仲間を信じる。）

ミオが解析機を握り、波動を調整した。

「波動、九割同期！ 悠太、今だ！」

装置の光が祭壇と共鳴し、道が安定する。

（私の技術は仲間を救う。先祖を越える。）

ミオの胸に決意が燃える。

老女が静光術を強化し、毒霧を裂いた。

「君たちの意志が道を開く！ 諦めるな！」

杖の光が要塞の門を照らし、波動が落ち着く。

（私の過去は君たちの未来だ。希望を信じなさい。）

老女がリナの傷を抑え、立ち上がらせる。

悠太が結晶を祭壇に掲げ、村の笑顔を思い出した。

（子供たちの声、村人たちの祈り、仲間たちの力…俺は負けない！）

結晶が白い光を放ち、連鎖刃が輝きを変える。

紫の糸が光の連環刃に進化し、十五の刃が放射状に広がる。

刃が影の化身を切り裂き、霧影獣、触手型、酸型を一掃する。

リナの元に駆け寄り、悠太が彼女の手を握った。

「リナ、大丈夫だ。俺たちがいる。」

彼女の紫の瞳が光を取り戻し、弱く微笑む。

「悠太…ありがとう…」

（この手が私を救った。過去を越えられる。）

カイが弓を下げ、要塞を見据えた。

「妹の未来のため、進む。」

（復讐は希望に変わった。仲間と共に。）

ミオが解析機を手に、微笑んだ。

「私の技術が門を開いた。次は要塞だ。」

（仲間がいるから、私の技術は輝く。）

老女が杖を掲げ、門を指した。

「君たちの意志が未来を切り開いた。進め。」

祭壇の光が輝き、毒霧が消える。

要塞の門が光を放ち、道が開ける。

悠太がリナを支え、仲間を見渡した。

（この力でゼルヴァスを倒す。村の未来を守る。）

腐敗の海の光の下、仲間たちは要塞への一歩を踏み出した