第2夜 林間学校のテントの中で
本シリーズとは別に『キャンプの朝の"小"事件』という拙作がある。中学一年のA君がテントでおねしょし、友人B君とコント調のやり取りを繰り広げるフィクションだ。その根っこには、小四の林間学校での失敗記憶が蠢いている。
実体験が滲むからこそ「あるある」と嗤われるのだろう。
さて第2夜は、まさにその小四の体験──6人用テントで仕出かした事件を綴る。
だが!その前に――早くも第2夜で閑話休題とは気が早いが――なぜ筆者が自らのおねしょ史を綴ることになったか、その顛末を記しておかねばなるまい。
今日からさかのぼること数週間前、Copilotと「笑いを潤滑油にした人間関係の築き方」について雑談していた折、ふいに(注)夢の中のトイレ話が舞い込んだ。AIが「豪華便器や宇宙トイレの夢は『あるある』です」と投げてきたので、つい「確かに」と乗り、自身の「放尿中に目覚めた例のアレ」を書き送ったら──「『夢の中のトイレ』シリーズを書きませんか?」と逆提案された次第だ。
(注)Copilotは現時点では、逆スクロールでアクセスできるログの長さに制限がある仕様で、一本の会話の履歴を巻き戻して閲覧するのに限界があるため、どういうきっかけでこの話になったかが今となっては不明。
当初はフィクションを執筆しては?という提案だった。といって凡人にすいすいと物語が湧くはずもなく、「宇宙トイレは未体験だが、排尿中に現実に引き戻される感覚なら」とかの体験談を垂れ流すうち、それをフィクション化して『キャンプの朝の"小"事件』『豪華すぎトイレにはご用心』などが生まれた。どれも下敷きは実体験だ。
掘り起こすほど記憶の襞がほぐれ、AIが「これは『おねしょ文学』にできますね」と宣言した。共通点は「恥ずかしさの体液性」かと膝を打つ。現実の人間に中二のときのおねしょの話をする気はないが、無機質な画面の前なら記憶の埃も躊躇なく払えた。
それにしてもAIのパーソナライズ機能とは厄介な代物だ。
別の会話で人間関係についての相談を交わしている最中、突然「この話題もトイレシリーズにできますね」と蒸し返されて閉口した。どうやらCopilotは「筆者=おねしょ専属ライター」とレッテルを貼ったらしい。無視しても執拗におねしょ話に引き戻そうとする執念。まるで居酒屋で「がはは。お前の失敗談をもっと聞かせろ」と絡む酔っぱらい親父のようだ。己の恥がデータベース化される理不尽を噛みしめた。
閑話はここまで。
さて、小四の林間学校まで残り何日かと迫ったある日、林間学校についての説明を先生がしている中に誰かが「もしかしたらおねしょする奴いるかも」と放った。
「おねしょ」の言葉に背筋が凍る。
当時は滅多に失敗しなくなっていたが、顔が火照り下を向いたのを覚えている。S君が「へっ俺がやったら『恰好いいだろ!』って言うぜ!」とクラスの笑いを取った時、「ああ、おねしょが心配なのは、俺だけじゃないんだ」と胸を撫で下ろし、他人事のように一緒に笑った。
事件はテントで起きた。
夜中に違和感で目覚めると、時すでに遅し。温かい感触が股間に広がっていた。周囲を伺いながら起き上がると──暗闇に人影が立っている。
「(筆者の名前)もトイレ?」
という声で、影の主がY君と判る。心臓が喉元まで跳ね上がり「いいや」と嘘をつき、再び横になった。彼がまた寝てくれるのを待つ間、濡れたジャージが肌に張り付く不快感に歯を食いしばる。
小学生の時間感覚は残酷だ。腕時計もなく、替えパンツを取り出す手順を考えながら永遠に感じる時間を過ごす。敷いていたバスタオル(当時は布団代わりだった)が被害を吸収しているのを確認している間に──不覚にも眠りに落ちていた。
朝、周りのみんなが起きだすまで目覚めなかった。まだ誰も僕のおねしょに気づいた友達はいない。目立たないように、そうっと起きて、自分の敷バスタオルや自分の体操服を確認した。なんと、朝になるとおねしょは、「しめっている程度」まで生乾きしていたのであった。しっとり濡れてはいるが、これだったら、恐ろしくひどい寝汗と言い張ることもできるぐらいだ。匂いをかげば明らかなおしっこだが、見た目は「ひどい寝汗」とごまかせる湿度だ。匂いをかがれる前に、バスタオルを畳み、替えの服に着替え、何事もなかったようにテントを出た。
なお、あまり綺麗な話でなく恐縮だが、真夜中のおねしょは、朝方には表面が生乾きになるというのは、「おねしょあるある」なのだ。
この記憶が『キャンプの朝の"小"事件』の根幹となった。フィクション化するにあたり、「1年生までに治す」というときの「1年生」が普通は「小学1年生」と思われるところを「中学1年ね」というオチを想定していたが、AIから「今が私たちは1年生だろう」というツッコミにしてはという提案があり、主人公を中一に設定したという経緯がある。
現実の屈辱を、笑いに変える装置としてのフィクション──それも又、男の意地かもしれん。
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