第34話 淫靡な女王と折れた剣



「くっ…!!」

「ほらほら!もっと頑張らないと、子供たちが死んじゃうわよ?!」


 建物は崩れ火の手が回る中、火よりも赤い火花が二人の間を照らす。


 防戦一方という様子で、敵の攻撃を受け続けるのは、レティシア・ローズマリー。


 そしてもう一人は、鞭を操るこの事件の首謀者であり、淫魔の女王である、ロベリアであった。


 エイルが去ったあと、ロベリアは三人の上級魔族の淫魔を連れて現れた。そして、ヒマリやジャンヌ、そして孤児院の子ども達を人質にし、ロベリアはレティシアに勝負を提案した。


 ロベリアは、加虐性欲を持っていた。


 美しい者や身分の高い者、できるだけ恵まれている相手を狙い、人質を取ったり、逃げられない状況にした上で、圧倒的な優位な立場で、勝負と称して痛めつける。それが、彼女の好みだった。


 レティシアは、その対象に選ばれたのであった。


「くぅっ……ガハッ!…!?」

「はい、残念」


 足を鞭で縛られ、そのままレティシアは地面に転がり美しい体と白銀の鎧を泥と血で汚す。


「ん〜…見た目は好きだけど、弱すぎて話しになんないわね〜、これならさっき遊んだ聖騎士の方が良かったかも」

「聖…騎士…?」

「ふふふっ、そうよ?貴女のお友達でしょう?確か名前は…忘れちゃったわ。だって、弱かったもの。でも、貴女はそれより弱いわ。その見た目じゃなきゃ殺しちゃってたかも」


 その言葉に、レティシアは怒りを…覚えなかった。


 子供を守る、その為に必死で体を動かしていたが、やはり駄目であった。


 折れた心は二度と立ち上がれない。聖女と旅をした自分は、そんな者達を数多く見てきた。


 聖女ですら、完全に折れた心を救うことはできなかった。そんな聖女を失った自分が、立ち上がれるわけがなかったのだ。


 守ることもできず、認めることもできず、復讐することもできず。ただ誰かの足を引っ張って、生きていくくらいなら…


(ここで、死んでしまえばいい)


「あら?もしかして壊れちゃったかしら?まだ何もしてないのに…何か嫌なことでもあったのかしら」

「………」


 地面から、体を起こせない。涙は流れなかった。


「はぁ…つまんないわねぇ…ラーラ。一人ずつ殺しなさい。そしたら動くでしょ」

「はーい」

「──キャッ」


 ロベリアにそう命じられ、ラーラと呼ばれた淫魔は近くにいたヒマリの首を掴み、じわじわと力を込める。


 上級魔族からすれば、子供のか弱い首を折ることなど造作もないことだが、まるで嬲るようにゆっくりと力を込めていた。


 だが、レティシアは動かない。


 そんなレティシアを見下し、ロベリアは失望の表情を浮かべた。


(高貴と名高い聖騎士、そしてその団長なのだから、それはそれは素晴らしい獲物だと思っていたのに、こんなゴミだなんて…)


「────あっ────ぅぁ───」

「や、やめてあげてください!死んじゃいますっ!!」

「鬱陶しいわね…離しなさいっ」

「うぐっ…」


 首を絞められたヒマリを助けようとジャンヌはラーラにすがりつくが、強く腹を蹴られ、その場に蹲る。


 その光景を見ても、レティシアは動かなかった。いや、その目には、ロベリアも、ラーラも、ヒマリも、ジャンヌの姿も映っていなかった。


 目を閉じ冷たい地面の上で、暖かな記憶を思い出し、思い出に浸っていた。


「残念だわ。もういいわね、全員殺しなさい」



























「俺はてめぇらのほうががっかりだよ」


 ギュイン!!という耳鳴りが、その場に鳴り響いた。


 ロベリアはその音に驚き、レティシアから視線を外し、自身の配下である者達がいた方へと目を向ける。


 そこには、首を切断された上級魔族三人の姿があった。


(えっ…?戦闘向きじゃないといえど、三人の上級魔族の首をこの一瞬で…!?何がっ)


 それは、ロベリアにとって信じがたい光景だった。


 そして、それを行ったであろう男は、ラーラが殺そうとしていた少女を抱きとめる。


「悪かったな。遅れた」

「…大丈夫です。私は無事ですから」

「ジャンヌも、大丈夫か?」

「私は蹴られただけですのでぇ…」

「そうか。あとで治療しよう。それじゃ、後は任せろ」


 首に刻まれた痕を一瞥し、その男は立ち上がり、ロベリアと向かい合う。


 二人の視線が交差する。


「がっかりだわ…超がっかりだよおい」

「…何がそんなに不満なのかしら?」

「あ?それはよぉ」


 一呼吸おいて、男は言う。


「淫魔はもっとエロくて男を誘惑するもんだろうが!何で普通に殺そうとしてんだこのクソが!!」

「…は?」

「…院長…」

「…エイルさん…?」

「淫魔、というかサキュバスってのはなぁ!エッチな夢を見せて死ぬまで精を絞ったり、オタクを誘惑するギャルサキュバスだったり、セッ○スバトルとか言って意味不明な勝負仕掛けてくるもんなんだよ!!」

 

 男は、いや、エイルは爆発した。


 この二週間、今までにないエロスと出会い、これまでエルフだから、子供の前だからと、異世界に転生してから数十年蓋されていた性欲が刺激され、淫魔や魔物との戦いによって生存本能が覚醒し、まるでダムが決壊したようにその性欲が言葉となり一気に爆発したのであった。


「お前はサキュバスの風上にも置けない!調教してやるこのクソニワカサキュバスビッチがぁっ!!」


 そう言い、エイルは長い柄と、その先端に不釣り合いなほど大きな丸い刃がついた魔法の杖のような形のチェーンソーを地面に叩きつける。



「さぁ、アバズレ、ぶった斬ってやるよ」



 柄についた紐を引き、空吹かしで何度か音を鳴らしたあと、チェーンソーのエンジンがブゥンという音を立て、刃が回りだす。回転音はどんどんと甲高くなり、獲物を求めてその刃は更に高速で回る。


 そうして、淫魔の女王と性欲の化身の戦いが始まった。



───────────────────────

あとがき

魔法使いの杖みたいな、フィクションでしか登場しない丸い先端のチェーンソー。あるよね。

あの武器って何て名前なんだろう?そのままチェーンソーでいいんか…?

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