混血の育成者〜弟子は全員最強クラス、でも本当に最強なのは夜の俺〜

渡琉兎

第一章

第1話:最強の誕生

「――み、見えたぞおおおおっ! Sランク魔獣、ベヒモスだああああっ!!」


 そんな叫び声が、荒野のど真ん中から聞こえてきた。

 この場には数百人の冒険者が集っており、その視線が一ヶ所に集まっていく。


 ――ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 視線の先から響く足音。そのたびに揺れる地面。

 この足音の主が、誰の目からもはっきりと見えるようになっていく。


「……嘘、だろ?」

「……でか過ぎだろう?」


 ベヒモスは数十メートルを優に超えているのだが、夕日を背にしているためシルエットしか確認できない。

 それでも冒険者たちの額には、緊張と恐怖からか、大粒の汗が浮かんでいる。


「……本当に、あんな魔獣と戦うのか?」

「冗談じゃない! なんなもん、近づく前に殺されちまうよ!」

「嫌よ! 私はまだ、死にたくないわ!」


 百戦錬磨の冒険者であっても、敵わないと分かっている敵を前にすれば、弱気な言葉も飛び出してしまうだろう。

 中には何も言わずに逃げ出した冒険者だっているくらいだ。

 この場に留まっている冒険者は、それだけで称賛に値するだろう。


「……だけど、俺たちの後ろには、家族が」

「……俺は彼女が」

「……子供たちに、情けない姿は見せらんねぇよな」


 一人、また一人と、ベヒモスと立ち向かうための理由を口にし、自らを鼓舞する。

 お互いに顔を見合わせ、グッと奥歯を噛みしめながら、頷き合う。

 覚悟を決めた。守る者のために、死ぬ覚悟を。


「……やってやろうぜ!」

「そうだ! 俺たちは冒険者だ!」

「私たちは自由だけど、その自由を守るべき人のために使ってやるわ!」


 口々にそう言いだした冒険者たちは、武器を構えた――その時である。


「安心して、みんな! あいつは私が倒してあげるから!」


 緊迫したこの場には似つかわしくない、明るい少女の声が響き渡った。

 誰が口にしたのか、最初は分からなかった。

 だが、声の主が誰よりも前に出てくると、冒険者たちはあまりの驚きに目を見開く。

 何故なら声の主は、その声音通りの少女であり、その背には自らの身長よりも長い直剣を担いでいたからだ。


「……誰だ、あの子は?」

「……私は分からないわ」

「俺も。あれ? でも、直剣に女の子って、聞いたことがないか?」


 男性冒険者の言葉で、この場にいた冒険者はとある噂を思い出す。

 一つ、背の低い少女が魔獣の群れを、背丈以上もある直剣を使って殲滅した。

 一つ、銀髪の少女が巨大な水棲魔獣を、湖ごと蒸発させた。

 一つ、薄藍の瞳を持つ少女が直剣に氷を纏わせ、最強の一角である竜種を両断した。

 少女に関連する噂話は、一年以内で一気に増えていた。


「……身長よりも長い、直剣」

「……銀髪」


 冒険者が該当する少女の特徴を口にしていくと、少女は担いでいた直剣を抜き放った。


 ――キンッ!


「「「氷を纏わせたああああっ!?」」」

「私が先に行きます! 皆さんは私に何かあった時、あの魔獣を倒してください!」


 少女は快活な声でそう言い放つと、たった一人で駆け出した。

 その速度は尋常ではなく、集った冒険者たちの先頭で見ていた者ですら、視認できないものだった。


(あいつを討伐できれば、私はまた少しだけ、あの人に近づくことができる! 絶対に、誰にも譲らないわ!)


 誰もが恐怖するだろうSランク魔獣のベヒモスを、誰にも譲らないと強気に考える少女。

 ベヒモスとの距離は一気に縮まり、少女はベヒモスの間合いに踏み込んだ。


『ブボバアアアアアアアアァァァァアアァァッ!!』


 直後、ベヒモスの大咆哮。

 遠くにいた冒険者たちのほとんどが、大咆哮を耳にした途端に体が強張り、あまりの恐怖に意識を失う者もいた。

 しかし少女は、誰よりも近い距離で、真正面から大咆哮を浴びている。

 それでもなお足を止めることはなく、むしろ加速させてベヒモスへと迫っていく。


氷壁アイスウォール!」


 少女が作り出した氷壁は、幾重も前方に作り出されていく。

 しかし、おかしなことに高さが異なっており、手前から段々と高くなっている。

 それはまるで、氷の階段のように。


「いっくよー!」


 すると少女は手前の氷壁に足をかけると、勢いよく跳躍。

 そのまま次の氷壁に着地すると、再び跳躍していく。

 氷壁は冒険者たちからも見えているが、その上を移動している少女の姿は豆粒にしか見えておらず、それが少女だと気づいた者はいなかった。


『ブボボオオオオッ!』


 目の前に現れた氷壁、そして迫りくる少女を目にしたベヒモスが吠えた。

 そして、巨大な腕を振り上げると、これから少女跳び乗るだろう氷壁目掛けて振り下ろした。


 ――ドゴオオオオンッ!


 氷壁は砕け、振り下ろされた巨腕によって地面には大きなクレーターが出来上がってしまう。

 地面は数多くの修羅場を潜り抜けてきた冒険者であっても、立っていられないほどに大きく揺れ動く。

 砕けた氷壁と砂煙が舞い上がり、冒険者たちの視界からベヒモスの姿が見えなくなってしまった。


『ブボボブブゥゥ……』

「私はここだよ!」

『ブボバ?』


 少女の声は、ベヒモスの頭上から聞こえてきた。

 顔を上げたベヒモスが見たものは、青白く輝く氷を纏った直剣を握りしめる、満面の笑顔を浮かべた少女の姿だった。


「いっけええええええええっ!!」


 少女の可愛らしい声と共に、氷の直剣が振り下ろされる。

 その瞬間、氷が直剣の先からさらに伸びていき、十メートル近い氷の刃が形成された。


『ブボバアアアアアアアアッ!!』


 あまりに一瞬の出来事に、ベヒモスは自身が持つ最大の攻撃、ブレスを放つため大きな口を開く。

 口内には既に禍々しい紫色の魔力が集約されていた。


「はああああああああっ!!」

『ブボボオオオオオオオオッ!!』


 氷の直剣と、禍々しいブレスが激突した。

 激突の余波は冒険者たちの視界を遮っていた氷の破片と砂煙を吹き飛ばし、お互いの魔力が飛んでいった地面を吹き飛ばしていく。

 最初こそ拮抗していたが、その均衡はすぐに崩れる。


「こんなところで、足踏みなんかしていられないんだからああああああああっ!!」


 少女の中にある魔力が、解放された。

 金色の光を放った少女の魔力により、氷の直剣はより鋭く、より硬く、より重い一撃が放てるように進化した。

 ベヒモスのブレスを押し返すのではなく、切り裂いて突き進んでいく。

 そして――


 ――ザンッ!


 決着は、一瞬だった。

 ブレスと共にベヒモスの体をも両断した氷の直剣は、直後には左右に斬られたベヒモスを氷像にしてしまう。

 そのあり得ないような光景は、冒険者たちからも見えていた。


「……やった」

「……ベヒモスを、斬っちまった!」

「氷漬けよ! なんてすごいの!」

「新たな英雄の誕生だわ! いいえ、女神様かも?」

「とにかく! 俺たちは助かったんだ! 英雄が助けてくれたんだああああ!」


 一人、また一人と声を上げ、気づけば大歓声に変わっていく。

 その声はベヒモスを両断した少女の耳にも届いていたが、彼女は全く別のところへ意識を向けていた。


(やった! やりましたよ、先生! 私、Sランク魔獣を一人で倒しました!)


 心の中でそう叫んだ少女は、誰もいないはずのベヒモスがやってきた先へ視線を向けると、満面の笑みを浮かべていた。


 ◆◇◆◇


(……よくやったな、アリサ。ちゃんと見ていたよ)


 少女――アリサが見ていた先には、一人の男性の姿があった。

 黒髪、黒眼の彼の周囲には、ベヒモスをはじめとしたSランク魔獣の死体が山のように転がっている。


「……さて。弟子の新しい門出なんだ。邪魔をしないでくれるか?」


 そう口にした男性は、さらに奥の方からやってくるSSランクや、さらにその上であるSSSランクの魔獣を前に剣を構える。


「日は落ちている。この時間の俺は――最強だぜ?」

『ギャルラリラアアアアアアアアァァァァアアアアァァアアァァッ!!』


 魔獣たちの大咆哮が合図となり、男性と魔獣たちの戦いが始まった。


 ――これは、一人の育成者と、育成者に育てられた最強の弟子たちの物語だ。

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