3.ぐらぐら、ふわふわ
そこからはもう正直記憶があやふやになっていった。僕の中の何かが決定的に壊れた気がする。それはもう盛大に。じっさいこの身体自体にはなんの不調もないのだろうけども。
かろうじて教室に帰り着く事は出来たらしい。
それでもその先はおそらくてんで駄目。この学校の王子様へと真に成る為の振る舞いは形をぐちゃぐちゃに崩していた。
何一つ成果の無いまま、僕は輝きを失っていった。というか最初から輝いてすらいなかった。
無情に帰りの挨拶が響く。
少しばらばらなその調べはとても愛おしいはずなのに、溶けたような頭の中をめちゃくちゃに揺らした。
だんだんと賑わいの引いていく教室の中、変わらず僕は残り物。ぐでんと頭部を投げ出せばひんやりとした机は故郷の温度みたいで――何の慰めにもならない。
「……転校生」
「ついに妄想が鮮明になってきた。僕ももう帰ろっかな……」
「まだシバより変な口きく元気はあるんですね、安心しましたさようなら」
「……妄想じゃない!? 待って待って帰るなら一緒に帰ってぇ! いっそ僕の故郷まで!」
必死だった、その声を聞いてしまえば。
王子様にはなれなくとも、それ以外の何か、とにかく『この世界の』何かになりたくて。
「ぎゃっ!?」
僕は彼女の腰を引っ掴んでいた。
「……っあ、ごめん痛かった!? 折れたりしてないかな大丈夫……!?」
「な、なななな……!」
今の僕は腕力も普通の人間レベルのはずだけれど、不測の事態があってはいけない。肉の下にある骨を外から確かめる、ああ柔らかい癒やされる口に含みたい。いやダメに決まってるだろ怪我してるかも知れないのに……!
「びゃ……ほ、ほんとやめ……っ」
ああ柔らかい。
正直これだけでは異常があるかどうかは分からなかったけれど、柔らかいことだけが再確認出来た。いくばくか僕の中のなにかが修復されていく気もする。
次は彼女の纏う布へ手を掛け、外傷の確認。
服というものは着たり着なかったりする僕達――僕はその着ない側であるから少し扱いに緊張したけれど、破ける事なくそれはずり上がってくれた。
薄いお腹。中で血が溢れた様子も無く、白くて綺麗。
思わず、ではなく。念の為。
そこへと僕はまた指を滑らせた。衣服の上からよりずっと良い、すべすべとした感触。今の自分へセルフで触れた時よりずっと特別で、僕は名目も忘れてむせた。
「……ごほん。ねえ、本当にどこも怪我してな――」
「――ふん!!!」
衝撃。
さっき彼女に逃げられた時の気分が質量を持ったような、そんな。
僕の頭はもうめちゃくちゃだった。外も内も。
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