2.第2話 ”キャラクターメイク #1/3”
脳波計測等、諸前提事項への同意を求められてから数分。
ちなみに、世界ではこのゲームについて、人権侵害だの、機密情報を知る要人や軍人のアクセスを禁止すべきだの、まあ、いろいろと紛糾しているらしいです。
知らんがなー。
あ、でも。そうか、それもあって私との契約に価値が生まれたのかも?
様々な異世界の光景、多種多様な種族、激しくも魅惑的な戦闘、財宝に異界の芸術品の数々……。目まぐるしく、しかし流れるように美しいムービーが、私の視界を埋め尽くす。
そして、そのすべてがホワイトアウトした瞬間、私は白い光に包まれました。
「ようこそ、Steps to Elysium Onlineへ」
目が見えるようになり、純白の無限に広がるような空間で私を迎えてくれたのは、メイド服を身にまとった、愛くるしい美少女のカーテシーでした。
「え、メイドさん?」
私の素っ頓狂な声に、彼女は楽しそうに微笑む。淡いライトグレーのウェーブロングヘアを、一部だけ緩いツーテールにした綺麗なツーサイドアップの髪が、ふわふわと揺れる。
見上げると、その翡翠の瞳が、優しく微笑みかけてきてくれます。
「うふふ、私はナビゲートAI #JP-001-00000379、ナビ、またはサユキと、お呼びくださいね」
たぶん、『ナビ』、がゲーム通じてのナビゲートAIの愛称、『サユキ』が個別呼称でしょうかね?
「よろしくお願いします、サユキさん」
私の言葉に、花の咲くような可憐な笑顔を浮かべるナビAIのサユキさん。
うん、この呼び方で正解でしょうね。
……かわいい。
「細かい説明は後にして♪ 一番大事、事前情報でも公開されていなかった!? じゃじゃん♪」
効果音のおつもりなのでしょう、擬音と共に眼前の美少女、サユキさんとの間に浮かび上がる、1枚のパネル。
大層豪華な装丁の、黒字に金縁の一際いかついそれに書かれている文字はと見れば。
============
“運命値への割り振り”
“xxxx/1,000UP”
“OK / Cancel
============
「このSteps to Elysium Onlineは、皆様の”特別”を叶える世界! まずはすべてに先立ち、”運命値”を定めていただきます。すなはち! 貴女だけの”特別な運命”を選択するか否か。それを決めていただくところから始めましょう」
言いながら、いたずらな表情を浮かべる彼女。外見年齢に不相応な、ちょっと蠱惑的な仕草に、高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、事前情報になかったその言葉に首をかしげる。
「“運命値”、それはその名の通り、あなたがこの世界で担う運命の重さ。言い換えるならば、”特別”の大きさを引き寄せます。その値が大きいほど、大きな制限が課されるとともに、特別なシナリオに組み込まれる可能性が生まれるわけです」
今度は人差し指をたて、唇にそっと添えた上目遣いで私を見上げる彼女。もう片手を後ろに組み。
「しかし……ゆめゆめご注意を。過ぎたる定めはあなたの行く道を閉ざすことも、あり得ます。さらに、ひとたび選び取った運命を遡ることは、いかなる手段をもってしても、許されません」
つまり、リセット不可ということ、なのでしょうかな? 一度決めた運命は変えられない、ということなのでしょう。 ちなみに『Steps to Elysium Online』は謎技術で個人特定をしているらしく、そもそも、リセットやサブアカウントの取得は不可能らしいです。
「さすがにこれだけで決めなさい。は暴論ですよね。説明はお嫌かもしれませんが、ちょっとだけ補足しちゃいますね? ちょっとだけ。ちょっとだけ、ね? いいでしょう?」
あの……美少女がその台詞は……いえ、何でもありません。
私の心が穢れているのでしょうか。というよりもわざと言ってます?
この瞬間だけ、ますます妖艶に舌をチロリと出して、唇をペロリ。
もぅ。かわぃぃ……。
「この後は、UPというポイント1,000を割り振る事で、キャラクターメイクをしていただきます。このポイントをどれだけ”特別な運命”を引き寄せるために消費するか。そういう事です。UP10で”運命値”1上昇。例を挙げれば、50以上割り振れば☆5(特異級 Unique)、100で☆6(英雄級 Heroic)のスキルやアイテムが初期選択可能になります。もちろんそんな事だけではなく、貴方だけの専用シナリオ、他多種多様な”特別”が、割り振った運命値の大きさに比例して、生み出されるのです!」
Steps to Elysium Onlineでは、UP(ユニットポイント)を消費して、キャラクタークリエイトを行う。
無数の種族、スキル、アイテム等を組み合わせられると共に、デメリットを選択することでUPを追加獲得し、さらにとがらせたオリジナルキャラクターを作れる。
事前の説明でも読んでいましたが、とにかく自由と選択の多様性が途轍もないと、ファンの心をわしづかみにしていた要素のひとつですね。ちなみに最高レアリティーは☆10(創世級)らしいです。
「最後の補足です♪ 特に、運命値50以上は本当に、特殊なルート分岐になります。常識的にプレイ不可能というレベルの制限がかかる場合もありますので、くれぐれもお覚悟くださいね。いわゆる、サポート対象外、ノークレームノーリターン。サユキしらな~い、です♪ 王道のゲームプレイで頂点を目指す、換金を視野に入れる。そんな場合は割り振らないことを、強くお勧めします」
おどけてウィンクするサユキさん、お茶目可愛い。抱っこしてぎゅってしたい……。
いけない、いけない。
もう一度目を向ける、目の前に浮かんだ
============
“運命値への割り振り”
“xxxx/1,000UP”
“OK / Cancel
============
と表示された、黒字に金縁の一際いかついパネル。
勢いつけて辞表を提出した、あの頃の私であれば。
生活の不安におびえる内心から、ひたすら目をそらしていた私であれば。
きっと、『ゼロ』、 『Cancel』、その選択に流れていたのでしょう。
ですが。
異様に記憶があやふやになっていますが、ゲームを離れざるを得なかった社畜生活20年。
これからは、立派なおひとり様参加で自由に、気ままに、楽しめる。
思いもよらぬめぐりあわせで、収益についても、ほとんど考えなくてよくなりました。
ええ、そもそもいつまで生きられるのかとか、そんな事も忘れましょう。
救いの神、『Deus ex Machina Corp.』のオーバーテクノロジーを信じるのです。
ですから!!
ええ、今の私がつかんだ、極大の不運と、極大の幸運、その果てにいる、現実には明日をも知れぬ今の私なら。
失うものなど、何も残っていない!
とんでもない好機をいただいたのです。ここで臆してどうしますか。
“1,000/1,000UP”
“OK”
“残りUP:0“
“この選択は取り消すことができません”
“OK”
無言でパネルをタップ。
サムズアップににやりと笑みを……うまく浮かべられませんが、気持ちは無敵に素敵です!
じっと、私を見つめるサユキさんの翡翠の視線の先。二人の間に浮かぶ、たった1行の文字列。
“ようこそ、楽園へと歩む第1歩。運命の選択、その先へ”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます