旧校舎の旋律
いまはほとんど使われていない、旧校舎。先日、旧用具室から道具を運んだときにハンカチを落としてしまったようだった。それで私はふたたびここを訪れていた。
旧校舎は暗く、埃っぽく、どんよりとした空気が漂っている。早く見つけて帰ろう。
旧用具室に入る。ハンカチを見つけた。よかった。校舎に戻ろうとしたとき。
ピアノの旋律が聞こえた。思わず耳を澄ませる。隣の教室だ。
音色に引き寄せられるように、旧用具室を出る。少し躊躇ってから、隣の教室を覗いた。
がらんとした教室。キーボードの前に、ひとりの女子生徒がいた。
彼女の白く細い指先が、鍵盤の上を踊る。けっして巧みではないはずなのに、耳が、目が、心が、「もっとほしい」と叫んでいる。
ふいに音が止まった。彼女は顔を上げる。目を細めた、気持ちを見透かしたようなその表情に、胸が鳴った。
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