第10話 衝撃の告白


 王城の会議室。

 長い円卓の上には紅茶とクッキー、そして緊迫した空気が置かれていた。


 レオンはテーブルの端で縮こまり、紅茶をすする。

 向かいには、銀雪の姫フィリア・アウルム。

 その背後では巨大な大剣が壁に立てかけられ、まるで「逃げられないぞ」と脅しているかのようだった。


「……で、もう一度確認するけど」

 レオンは眉間を押さえ、慎重に言葉を選ぶ。

「アウルム王国が滅亡寸前って、どういうこと……?」


 フィリアは両手をぎゅっと握りしめ、眉を下げた。


「……我が国は、魔獣の大群に囲まれています」


「魔獣の大群!?」

 レオンが噴き出した紅茶がテーブルに散る。


「はい。黒角狼デス・ハウンド翼竜ワイバーン、果ては地を揺るがす大蛇バジリスクまで……」

「え、ちょっと待って、バジリスクって大陸を丸呑みするって噂のやつ!?」


「はい、しかも三匹います♡」


「笑顔で言うなぁぁぁぁ!!!」


 レオンが椅子ごとガタガタ震えていると、フィリアは真剣な目で彼を見つめた。


「私も軍を率いて戦いました。しかし……魔獣の数は万を超え、もはやジリ貧。国は三日以内に落ちます」


「三日!? ちょ、待って待って! なんでそんなカウントダウンみたいに迫ってんの!?」


「だからこそ……!」

 フィリアは突然立ち上がり、バァンッと両手をテーブルについた。


「最恐魔王レオン殿下――どうか、我が国をお救いください!」


「……あ、あの、それ誤解なんですよ俺、最恐とかじゃないし……」

 レオンは小声で否定するが、誰も信じていなかった。


 その時、背後で紅髪を揺らしたヴァルがあくびをした。


『ふぁぁ……。魔獣退治? 面白そうじゃん、ご主人様。退屈しのぎにもなるし、やってあげれば?』


「お前はいつもノリが軽いんだよ! わかってんの!? 相手は万単位だぞ!?」


『ふふ、万匹? 焼けば一瞬だろう』


「軽っ!? あまりにも軽すぎる!?」


 フィリアがすかさず食い気味に乗ってきた。


「そうです! 一撃で帝国軍を消し飛ばした力があれば、魔獣なんて雑魚です!」


「いやいやいや、あれはたまたまだし! 俺、あの時マジで気絶してたからね!?」


『大丈夫大丈夫。ご主人様は気絶してても私が勝手に動かすから』


「やっぱり俺、ただの魔力タンクじゃねぇか!!!」


 レオンが頭を抱える横で、長兄アレクシスが紅茶をすすりながら言った。


「レオン、お前、このまま行ってきたらいいじゃないか」


「兄上!? なんでそんな軽い!?」


「お前、帝国軍を一撃で殲滅したんだぞ? 王国内でやれることなんてもうない。

 だったら隣国を救って“英雄”になってこい」


「いやいや、俺は“最恐魔王”じゃなくて“最弱王子”のままでいいですから!」


 すると次兄カイルがニヤリと笑った。


「まぁまぁ、レオン。もしアウルム王国を救えば――」


「……救えば?」


「第一王女フィリア様との結婚は確定だな」


「は、はぁああああ!?」


 レオンが椅子から転げ落ちると、フィリアは恥じらうどころか拳を握って叫んだ。


「はいっ♡ 戦場で肩を並べたら、もう結婚一直線です♡」


「そんな戦場婚みたいなノリやめてぇぇぇぇ!!!」


 その横で、ヴァルがむくれてフィリアを睨む。


『ふーん……。つまり、ご主人様をおびき寄せるための作戦ってわけね?』


「違います♡ 本気です♡ この命と筋肉に誓って!」


「筋肉に誓うな!!!」


 レオンは両手を突き上げて叫んだ。


「俺は絶対行かないからな!? 魔獣退治なんて無理だからな!?」


 ……そう宣言した直後、王城の外から爆音が響いた。


 ――ドオォォォォォンッ!


「ひぃぃっ!? な、なに今の!?」


 兵士が慌てて駆け込んできた。


「報告します! 魔獣の先遣隊が国境を突破し、すでにこの王都近郊に出現――!」


「こっちまで、来ちゃってんじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」


 レオンは頭を抱え、ヴァルはニヤリと笑い、フィリアは拳を握りしめた。


「ご主人様、決定ですね♡」


『主よ、派手に行こう。久々に骨のある戦いだ』


「ちょ、誰か俺に拒否権をくださいぃぃぃぃ!!!」

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