第2話変わり始めた日常

第2章: 変わり始めた日常

それから数週間、杏奈はほぼ毎日、帰り道にそのカフェに立ち寄るようになった。翔太もいつもカウンターの席に座っており、二人は時折言葉を交わす程度だったが、それでもお互いの存在が日常の一部となっていた。杏奈はいつも通り、「こんにちは」と声をかけ、翔太もにっこりと笑って「こんばんは」と返してくれる。そのやり取りが、杏奈にとって心地よい時間となっていった。

ある日、杏奈がカフェに入ると、翔太はいつもと違って少し浮かない顔をしていた。目を合わせることなく、黙々とコーヒーを飲んでいるその様子に、杏奈は何かが違うことに気づいた。店内の静けさが、普段とは少し異なって感じられる。杏奈は勇気を出して、いつも通りに席に座った。だが、その日は言葉がなかなか出てこなかった。

しばらく沈黙が続いた後、翔太がゆっくりと口を開いた。「杏奈、今日はあまり話せなくてごめん。」彼は少しだけ苦笑し、「ちょっと考え事をしていたんだ」と言った。杏奈はその言葉に納得できず、心の中で何かを感じ取った。しかし、翔太は続けて言った。「でも、君に言わなければならないことがあるんだ。」その言葉に、杏奈の心は一瞬で緊張した。

「どうしたの?」杏奈は思わず尋ねると、翔太は少し顔をしかめた。「実は、最近家のことがうまくいっていなくて…」その言葉に、杏奈は何かが違うことを感じ取った。彼の家族に関わる問題が、彼を苦しめているのだろうか。翔太は目を伏せ、少しの間黙っていた。「僕、どうしても君に迷惑をかけたくないんだ。」その言葉が、杏奈の心に重く響いた。

杏奈は言葉をかけることができなかった。ただ、その気持ちが痛いほど伝わってきた。翔太は何かを抱えている。彼の不安や悩みは、誰にも話せないほど大きなものなのだろうか。杏奈は彼を支えたいと思う反面、何もできない自分に苛立ちを覚えた。

その夜、家に帰ると、杏奈はずっと翔太のことを考えていた。彼に何が起きているのか、そして自分にできることは何かを必死に思い描いていた。しかし、答えはすぐには見つからなかった。ただ、翔太の優しさや少しだけ見せる悲しげな表情が、杏奈の心に深く刻まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る