勇者と英雄

ronboruto/乙川せつ

序章:勇者ウィリアム・グランベルク

第1話 少年

「ウィリアム・グランベルク様、登録完了です。ようこそ、冒険者ギルドへ」


「……ありがとうございます!」


 僕は、昔から憧れていた冒険者になった。14歳から誰でも登録はできるが、強さが無ければ死ぬだけだ。

 試験なんてない。弱ければ死に、強ければ成りあがる。


 英雄への、第一歩!


 正直、僕に才能なんてものは無い。それは断言できてしまう。だからこそ努力するんだ。たった一振りの愛刀と共に。


「せぁあああああッ‼」


『グォオオオオ……⁉』


 ――――――モンスターを、ブッ倒す‼


 初めて討伐したモンスターは《オーク》だった。

 その時、僕の努力が報われた気がして……刀が答えてくれた気がして、嬉しかった。


 たった一匹の下級を討伐して、有頂天になった。


 でもこの時、確かに僕は一歩を歩んでいた。誰にも変えられない、運命の道を。

 世界創造の時から決まっていた、絶対の物語を。


「ハァああああああ‼」


 きっと僕は、選ばれてしまったのだろう。


「よっしゃあああああああ――――――っ!」


 初めて冒険者になった日、オークロードの群れを壊滅させたときにはきっと。

 才無き少年が本来できるはずがないことを起こしてしまった。出来てしまった。


 強制的に英雄へと昇華させる。


 少年に、使命なんてものを植え付けて。


「僕は……諦めるワケにはいかないんだっ!」


 近衛騎士にそう啖呵を切れるほど、僕は侵されていた。


 英雄に……勇者に。


 僕はこの人生を後世に残す。僕が何を見たのか、知ったのか、成したのか。

 誰か一人にでも知ってほしいからだ。


 勇者と呼ばれない男の記録を。


 奇跡を起こすまでの軌跡を。


 起こさなければならなかった理由を。


 剣と杖の終着を。


 勇者と英雄の最後を。


 その最後がいつになるのかは分からない。そして、最後を描くことはできないだろう。


 僕はきっと、すぐに死ぬ。


 そう、決まっているんだ。僕は、そのために生まれてきたのだから。

 もし、僕の最後を見た人がこれを読んだなら……書き加えておいてくれ。


 僕の、死に様を。

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