境界線を越えた夜🌙

@md__xxx

はじまりの指名

夜のネオンに染まった街。


いつものように私は作り笑顔を貼りつけて

お店に入った。


──優愛、今日も頑張ろ。

心の中でそうつぶやいて受付で待つ。


「次のお客さま、ご案内です」


スタッフに声をかけられドアを開けた瞬間。


「初めまして」


落ち着いた声が耳に届いた。

目の前にいたのは、スーツ姿の大人の男。


40代くらいだろうか。大人の余裕をまとった

どこか静かな雰囲気の人だった。


「優愛ちゃんだよね?」


「はい、そうです。」

「今日はよろしくお願いします」


そう言って笑った私に彼は優しくうなずいた。

普通ならそれだけ。


私はプロとして

いつもと同じように時間を過ごすだけ。


でも…違った。


会話の一つ一つが、妙に心に残った。

「無理してない? 疲れてない?」

そんな風に気づけば私のことを気遣ってくれる。


ただの“お客さん”のはずなのに

胸が少しだけ温かくなった。


──ダメだよ、優愛。

割り切らなきゃ。

これは仕事。心なんて、持ち込んじゃいけない。


そう分かっているのに。

彼が帰った後も、あの笑顔が、優しい声が

頭から離れなかった。


これは…何かが始まってしまった

夜なのかもしれない。

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