俺が魔法を使えた頃
於田縫紀
プロローグ 高校1年4月 俺と姉? の居場所
プロローグ1 異世界魔法部
4月10日、水曜日。17時40分を少し過ぎた頃。
都内ではないが一応は首都圏にある、私立文理教養学園竹出高校のサークル棟3階、西端の312号室。
ここは俺が所属するサークル『異世界魔法部』の部室だ。
サークルといっても現在の部員は2人。
1年の俺、
つまり現状では、身内だけ。
入口扉脇に掛かっているサークル名が書かれている筈の名札は、一般の生徒には空白に見える。
しかし魔力を感知できる者には『異世界魔法部』と記されているのがはっきりと見えるはずだ。
更にこの部屋には、衣緖菜の隠蔽魔法が施されている。
そのため普通の生徒は、この部屋に入ろうと思うどころか、存在を意識することすらない。
隣が階段なので廊下を通ることはあるけれど、それだけだ。
時折、前の廊下を生徒が通る足音は聞こえる。
それでも部室の前で立ち止まったり、確認しようとする気配はまったく感じられない。
つまりは……
「今日も入部希望者は来そうにないですね」
「先読み魔法では、今日は誰も来ない。だから充電しても問題ない」
そう言って衣緖菜は、俺の背後から抱きついてきた。
肩にかかる重みと熱、耳元に響く呼吸、自分ではない匂い。
思わず余計なことを考えそうになるが、ここは学校だ。
ただ、誰も来ないのなら無理に振りほどく必要もない。
俺自身が余計なことを考えなければ、いや考えたとしても行動に移さなければ、問題はない。
『異世界魔法部』は、その名の通り異世界の魔法を扱うクラブだ。
この場合の異世界とは、衣緖菜――かつて「5290107番」と呼ばれていた彼女が暮らしていた、バナジード神聖王国のある世界。
今のところ、俺も衣緖菜も他の異世界は知らない。
それでも、地球の魔法と区別をつけるために『異世界魔法』と呼ぶことに、衣緖菜はこだわった。
「この世界には、この世界の魔法がある。だから混同しないようにしないと」
そういう理由で、この部は『異世界魔法部』となったわけだ。
もちろん、そんな名前のサークルが学校から正式に認可されるはずはない。
活動費が支給されることも、部室を与えられることも、本来ならあり得ない。
そもそも入学したばかりの1年生が、入学式の翌日にサークル設立を申請するなど前代未聞だ。
そしてそのサークルが認可されるなど、普通では考えられない。
しかし俺と衣緖菜には魔法がある。
衣緖菜がかつてバナジード神聖王国で身につけ、俺に教えてくれた魔法が。
衣緖菜の得意分野は読心を含む精神操作。
それ以外にも治療や予知や転移など、多彩な魔法を使用可能だ。
そうした力を使えば、教師や生徒会に『異世界魔法部』を正式なサークルと認めさせることなど造作もない。
衣緖菜の戸籍を作ったり、俺の戸籍を移動させたりするよりは、よっぽど簡単だ。
そうして得た居場所がこの部室。
俺たちはここで待っている。
かつて別れた衣緖菜の仲間や、あるいは他の異世界から訪れた誰かがやって来るのを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます