神殺しとして召喚された少女が幸せになるまで
沙月
プロローグ
あるところに、1人の王様がいました。
王様は強欲で、傲慢で、不遜で、怠惰で、“王”という地位を最大限に利用して、独裁を敷いていました。
ある日の事。大教会の神官に神託が降りました。“今の王はこの国に相応しくない”と。
この国では、この世界では、神様の言うことは絶対です。神官は神託に従い、王様を王座から追放するように申し出ました。
王様は当然反対しました。けれど神託は絶対です。王様は王座から引きずり下ろされました。代わりの王には、齢10歳の少年が神様に選ばれました。少年は王族の血を引いてはいるものの末端も末端で、本来なら到底王座に座る事など許されません。しかし神様が選んだ以上、これからは彼が王様です。
かつての王は、10歳の少年に王座を奪われた事に酷く腹を立てました。「何が神託だ」「何が神だ」と叫び、世界を呪いました。
そして、彼は禁術に手を出してしまいました。
それは、異世界から“神を殺す者”を召喚する魔術。魔術は成功し、1人の少女が召喚されました。
その少女は、黒い髪と黒い瞳を持っていました。この世界では、黒は忌み嫌われる色。神様の“白”とは正反対の色。その色を持った少女は正しく“神を殺す者”だと、彼は喜びました。
対して、少女は困惑に包まれていました。いつもの様に学校へ行って、友達と喋って、「また明日ね」なんて言って別れた途端、こんな事に巻き込まれてしまったのですから当然です。
状況が飲み込めない少女の気持ちも事情もお構い無しに、かつての王は少女に“神を殺す”よう命じました。
「訳が分からない」と少女が答えると彼は激昂し、「良いから言う通りしろ!」と叫び、少女を大教会へ連れて行きました。
「さぁ神を殺してみせろ」と彼が言います。少女は何も出来ません。
大教会という神聖な場所に“黒”の少女を連れて来たこと、「神を殺せ」と不敬な事を言ったこと、その2つの咎により、彼はあっさりと捕まえられ、後に処刑されました。処刑される寸前まで、国に、世界に、神に対する恨み言を述べていたそうです。
___さて、1人残された少女はどうなったのでしょう。
彼女も処刑される筈でした。当然です。“神を殺す者”なんて生かしておく訳にはいきません。
しかし、彼女は勝手に喚び出された被害者でもあります。彼女の境遇に同情する者も多くいました。その内の1人が10歳の王様でした。
「何もしてないのに、家族と離れ離れになって死んでしまうなんて可哀想。助けてあげて」と王様は言いました。幸い、“この少女を殺せ”という神託は下っていません。王様の言葉を受け、少女の処刑は取り止めとなりました。
しかし、神を殺す力を持つ彼女を放置しておく訳にもいきません。そこで彼らがとった選択は、“少女を幽閉する”事でした。
そうして“神殺しの少女”は暗い地下室に今日も閉じ込められています。いつ暴走をするか分からない、黒い色を持つなんて気持ちが悪い、神を殺そうなんて不敬にも程がある、そういった警戒や悪意をその身に受け止めならがら___
今日も、少女は異世界で生きている。
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