あの蒼穹と ロボと 王子と めぐる空
秋天
<プロローグ>あの夏の夕暮れから君へ
『
夏は始まったばかりなのに、
今のあたしには終わりを思わせた。
泥だらけで……へたり込むあたし。
眼前の王子が言う。
――王子。
自分を”天空から来た王子”とかいう青年が、あたしに頭を下げた。
王子――ホラ話みたいだったけど今は信じてる。
彼はこんな東京の田舎の女子高生に頭を下げるのだ。
『頼む……』
非現実な光景……。
でも事実だという証拠が彼の背後に居た――
ロボット――彼の国では”アゥエス”と言う。
ここは異世界でもないし、転生して超絶な力を持てた訳でもない。
ただ平凡な平民少女への単純な要求だった。
『ロボットに乗って目の前の巨大ロボを倒してくれ』
――バカな設定だった。
漫画だった。
なんであたしなんだよ、ずっと思ってた。
――あたしだけの極秘指令。
あたし、
彼には今満足には動かせない。だからあたしに代理で動かせと言うのだ。
いや、正確にはこの春からあたしは何度も動かしていた。
でも、もうイヤなんだ……あんな、あんな想いを……!
でも、敵は来る。
夕日をバックに山間いに佇む鳥のような――人型ロボット。
王子のと同じ、”西洋の城に手足がついた様な”デザインの。
敵ロボットってやつだ。
『お前は……もう脇役でも端役ヒロインでもないんだ』
王子の勧誘は続く。
だってあたしだけが頼りだもの。
西洋人顔の、端正な顔立ちの王子――苦悶に歪んでいた。
身体は借り物で――機械と生体部品のあいの子で。
こんな”ガラクタな王子”が降ってきたせいで。
(……そうだ……こんな奴が落ちてきて……あの日から……)
後悔は三か月前から始まった。
田舎娘はロボアニメとプラモが好きだっただけ。
でも。乗って闘いたいとか望んでない……。
真実を語る王子リヒトは、あたしを憐れむ。
王子――キミは最初は、ほんとに弱かった。
身体がデタラメで、色んな意味でふざけてた。
でも――今ならわかる。
キミはあたしと一緒に、強くなろうとしてたんだね。
『あのアゥエスとは戦いたくはない――でも、
戦わなくては、ボロボロの自分ではもう未来はないから』
未来がない。だろうね。
このままだとこのハチャメチャな
敵のロボットに”喰われて”ぱくっと終わると言う。
――ロボットに喰われる?
――あたしの日常が終わる?
これから語るのは、ここまでの振り返りだ。
いや。
現実に向き合うまでのハチャメチャな遠回りの軌跡――。
あたしは彼の背後のアゥエスを見上げる。
〈フィエーニクス〉という名の白き
不死鳥――という意味の。
――君もそう願うの?
今はボロボロで、だいぶ元に戻ってきたけど、彼(彼女?)は
静かに次の指令を待っているのだろう。
――ねぇ、聞いて。
あたしはさ、この、想い出の公園であんな事を、
あんな想いを思いださせられたんだよ――
天空の国の事情なんか知らない。
あたしはただ、”量産型”なプラモ女子なんだ――
”どこにでもいる平凡なヤツ”と言う意味で、量産型。
友達と駄弁り、模型を作り、
この街で一生を終えると思ってた量産型な脇役。
だから、あの春の日の朝から想い返す。
――あたしは王子の手をとるのだろう
――払いのけて日常にもどるのだろう
どちらを選ぶ?
だから誰かにこの三か月を聞いてもらいたい。
こうして、
"普通じゃない"脇役、汪鳥蒼穹が巡る、
ロボと量産型少女とガラクタ王子の日々が、
始まったのだった――
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