糞2話 正夫の反撃

それから、正夫とディオの奇妙な共同生活が始まった。


「神谷卿、あの犬とジョボジョボにはどんな関係があるのですか?」


「うむ…この国に爆弾が大量に落とされて敗戦したのは君も知っているだろう

国が復興を始めた頃に、わたしは親をなくしたのか

ブルブル震えている犬を連れ帰った。

そしてジョボジョボのよい友人になってくれると思ったのだが…

知らない家に連れてこられたせいか、その仔犬…

シャドはジョボジョボに噛みついてしまったのだ!

それからシャドはジョボジョボが見つけてきた

食べ物を勝手に食べてしまったりしたので

棒で小突いたりいじめるようになってしまった」


「最低のクズですね、犬をいじめるなんて」


「だがシャドが成犬になってからのある時、

私が頼んだお使いの帰り道にジョボジョボが肥溜めにはまってしまってな…


なんと自分まで糞まみれになるのを顧みずジョボジョボを引き上げて助けたのだ!

ジョボジョボは感謝で号泣したと聞くよ…

命の大事さをしっているのだ あっぱれな犬ではないか!」


「ふうん…そうですか…

(ではあのクソ犬を始末すればジョボジョボへの

精神的ダメージは計り知れないものになるな)」


さっそくディオはシャドへの食事

(神谷家では動物はペットではなく家族なのでエサとは呼ばない)

に催眠薬を混ぜ、眠ったところを焼却炉に放り込んだ。



…はずだったが。

なんとッ!

自分が足を滑らせて焼却炉にハマってしまった!


焼却当番だった正夫が偶然焼却炉でディオを発見して救出。

更に犬は人の邪悪さを見抜くと言うが

自分に薬が盛られたと悟ったシャドは、ディオのズボンの尻部分に噛みついた。

正夫のお母さんにズボンを縫ってもらうまでは、

しばらく尻丸出しで活動することになった。



(くそ…おれの親父が助けた紳士の家というから

喜んで養子になったものの

全く金なんてねえじゃねえかッ!

わざわざ親父を殺して天涯孤独になった意味がないぜ…

なにかこの状況を覆す状況は…)


アップリケで補修されたズボンでいじけながら歩いていると…


戦後の焼けた滑り台を屈託のない笑顔で滑っている少年少女の姿を見た。


(あれはジョボジョボと…誰だ?

とにかく金持ちそうだな


…なるほど!あの娘のヒモになって金を巻き上げようっていうのか!

いいチャンスだ…

あの女、おれのものにしてやるッ!)




数日後。


「やあ君…スーハミっていうのかい?」

「誰ッ!?」

物陰から出てきたディオに、スーハミは驚いた。


「ジョボジョボと遊んでたようじゃあないか…

ずいぶん仲がよいことで…うらやましいよ。

ところでもうジョボジョボとキスはしたのかい?


まだだよなぁ…」


ズッギュゥゥゥン


唐突に抱き寄せ、愛のない情熱的なキスをした。


「ーッ!」


「やったッ!」

「さすがディオ!おれたちにできないことを平然とやってのける!

そこにしびれるあこがれるーッ!」


ディオの手下になったいじめっこ達がもてはやす。


「ふふ…こうやってジョボジョボから友人を取り上げていく…

孤独は人間を空っぽにするからな!

そのうち何もできない腑抜けになる!


お前の初めての相手はジョボジョボじゃない!

この ディオだァーッ!」


「あ、あいつ何してるんだ!?」

「頭おかしいんじゃないか!?」


「む!?」


スーハミは、泣きながら肥溜めで口を洗っていた。


「ディオにキスされたのがそんなに嫌だったとしてもよぉ!」

「なんでわざわざ糞で洗うんだ!?近くにドブ川もあるのによ」


「こ、この女ッ!」


スーハミは無意識のうちにイギリス流の「煽り」をしていた。

侮辱的なキスをされた時にドブの水たまりで口をすすぐのは

「やーいお前のキス泥水以下」という意味を持つのだ。


「わざと糞で洗って自分の意志を示すかッ!

そんなのは!つまらんプライドだッ!」


思わずカッとなったディオはスーハミを平手打ちする。

彼女の唇から血が出た。





神谷家。


「ディィィィィオオオオオ!!!!!」


正夫が怒鳴り込んできた。


「人の名を!

ずいぶん気安く呼んでくれるなよ。

それにその握りこぶし…何をする気だ?」


「彼女のお父さんから聞いた!

君が親友だとしても、決して許さない!」


「ほほう!聞いたか!愛しのスーハミのことを!

そして見苦しい嫉妬から鉄拳による報復を…」


返答せずに殴りかかる正夫を軽くかわし、腹に膝蹴りを見舞う。


「うげっ」


「いいぞ!新たな力がわいてくる!

お前を完全に下し、ぼくは…」


ドゴッ


膝蹴りに怯まず、正夫は頭突きをお見舞いする。

そして間髪入れずに往復で顔面にパンチを炸裂させる。


「ディィィィィオオオオ!!!!

ぼくが許せないのは、スーハミへの侮辱だッ!」


「君がッ!」


「うげっ」


「死ぬまでッ!」


「ぐえっ」


「殴るのを!」


「ぐは」


「やめないッ!!!!」


「ぐええええええーッ!!」




「こ、こんなカスみたいなやつに!

この…ディオがッ!」


勢い余って壁まで吹き飛ぶディオ。


謎のおぞましい仮面に血がついた。

とたんに骨針が伸び、壁から落ちる。


ディオが大声で泣き出した。

「よ…よくもこのぼくに…


この…肥溜めに落ちた…

汚らしい阿呆がぁーッ!!」


「な…なんでぼくが小さいころに肥溜めに落ちた事をしっているだ…?」



「そこまでッッ」


二人が声の主を探ると、二階に筋骨隆々の老人が立っていた。


「おじいさま…!」


「あれが…神谷家当主…!」



「男子たるもの喧嘩のひとつくらいするだろう…

だが!わしの私財をなげうって建て直した家を壊すなッ」


「ま、まってください当主…これには…」


「言い訳無用!あとで二人とも『罰レ』を与えるッ」


「罰レ…」


その言葉を聞いた途端、正夫がこわばった。


「な…なぁ…罰レってなんなんだ…?

おい…ジョボジョボ…?」

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