第二節
「都君?原田都君でしょう?」
都は学校帰りに、一人の女子中学生が声をかけてきた。白のポロシャツと赤とグレーのプリッツスカートを着ている。学校の制服なのだろう。見た目は、紺に近い紫の髪と、紅い瞳だとニュースでは言っていた。
彼女は山口鈴である。
「山口鈴ーー僕を殺しにきたのか?」
都は隠し持っていたナイフを取り出す。都は鈴の首筋に、ナイフを突きつけた。彼女の首に赤い線が入る。早くも鈴につけた傷は、修復されつつあった。都に突きつけたナイフを、振り払おうとはしない。
むしろ、堂々と立っている。
テレビでの話から情報処理を、得意としているらしい。デザインズ・ベイビーに関する内容も、全て暗記していると胸を張って話す。不思議なのは鈴から殺気を感じなかったことだ。最初から都と、戦うつもりはなかったのだろう。笑みさえ浮かべている。余裕もあった。鈴の意図が分からず、すっきりしない。都より上の身体能力を確認するいい機会なのに、能力をひけらかそうとはしなかった。都の肩に手を置くと、ナイフを取り上げる。
抵抗はしなかった。
どことなく、瞳は透明さを滲ませていた。透き通っている瞳をしている。死を覚悟している者の瞳でもあった。覚悟を決めている者の瞳は強い。大切な人のために戦う。
例え、己の存在が世間から忘れ去られたとしても、全力で戦い抜く。
都の揺るぎない決心があった。
ぶれることもない。
底知れぬ強さがあった。
「無理矢理に会わないと、話そうとはしないよね?逃げるよね?」
「教授に刃向かうなんて自分を、見殺しにするつもりでいるのか?」
「あら?心配してくれているの?私は私の意思で会いに来たのよ。あなたに時間がないのは分かっているわ。教授に会いにいくつもりなの?今の家族は?」
「守るさ」
「原田孝への報復の計画を、考えていたらどうする?」
「君たちの計画もあるだろう。それに、口出しをするつもりはない」
「遠くからになるかもしれない。あなたの家族を守らせて。人が傷つくのを見たくないの。傷つく人を増やしたくないの。お願い」
都が二通の手紙を差し出していた。湊の名前と相田家の名前も、封筒には書いてある。
「手紙を書いた時に、予感がした」
都が語りかけてくるとは、思っていなかった。
「予感?」
「そう。手紙を書いた時に、渡す人が現れるとの予感」
「それが、私?」
「うん。それと、もう一つは、僕に会いに来た勇気を勝っただけだよ」
「あなたが出した答えに、後悔はないのね」
「親の不始末は子供の責任だと思うから」
「最後に私、あなたに謝らないといけないのよ」
「謝る?」
何を言っている?と、都は聞き返してきた。
「教授の様子を探るのに、あなたを利用したの。ごめんなさい」
「別に利用価値があると思うのなら、利用すればいい」
「利用されて悔しくないの?」
「利用価値があるのなら、使ってもらってもいい。 まだ、使ってもらえると思う方が幸せだ」
都は立ち去っていくのを見て、鈴も歩き出す。
遠くで雷鳴が鳴っている。
二人がいた場所は、何事もなく静まり返っていた。
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