第15話 敗戦報告

王都の城門が開き、疲弊しきった男たちが入ってきた。

顔はやつれ、衣類は血と土にまみれている。

それでも、彼らの瞳にはかすかな光が残っていた。


「おお……討伐軍の兵だ!」

「戻ってきたのか!」


民衆が駆け寄り、兵たちを囲む。

その声は哀れみと、いくばくかの期待を滲ませている。


やがて、宮廷に召し出された敗残の兵たち。

彼らは玉座の間で震える声を振り絞った。


「……シュタイン男爵は我らを殺しませんでした。

 武器を捨て、敵意を捨てた者を討つことは、己の誇りに反すると言われた」


「そなたらを……殺さなかった……」


王は目を剥き、声を荒げた。


「馬鹿なっ!奴は反逆者だ……いったいなぜ……」


兵たちは必死に続けた。


「男爵はこうも仰いました――

 ”シュタインを侮れば拳と刃でわからせる。だが、敬う者には拳も刃も向けはせぬ”と」


広間がざわめく。


「馬鹿なことを言うな!無頼の熊に情けなどあるものか!」

「いや、本当の話らしい。実際に家族のもとへ帰していると……」


王都の高位貴族たちは必死に否定の声を上げてはいる。

だが、地方出身の廷臣たちの目には静かな確信が宿っていた。


「――やはりだ。シュタインは、我らの誇りを体現している」

「陛下が軽んじたその忠義を、彼は拳で示したにすぎぬ……」


王は青ざめた顔で杖を握り締め、心の奥底に芽生えた恐怖を吐き捨てるように呟く。


「――あやつの甘言、慈悲、もしやこの玉座を見据えてのことではあるまいな……」


一方で、民衆も兵たちの言葉を耳にしていた。


「助けられた?本当に?」

「俺たちを本当に守ってくれるのは、もしかして国王じゃなく、シュタイン様なんじゃ……」

「だとしたら、どちらが王にふさわしい?」


噂は瞬く間に王都全域に広がった。

敗北の恐怖は次第に「新たな希望」へと姿を変えていく。


――玉座の間。怒りに顔を紅潮させ、王は杖を叩きつける。


「痴れ者どもが!あれは無法の逆賊。情けなど見せかけにすぎぬ!国の礎は我である!シュタインごときに惑わされるな!」


王の言葉は、この場にいる者の心さえ揺さぶらず、虚しく響くのみ……。

事ここに至り、――兵も、民も、臣も、新たなる“国の守護者”の胎動を感じ取ってしまったのだ。

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