第4話 俺という人間を理解してもらおう
――静まり返った離宮大広間。
豪奢な扉が開かれ威厳をまとった国王が現れる。
黄金の衣と宝冠が、燦然と光を放っていた。
カールは巨躯をかがめ、片膝をつき、深々と頭を垂れる。
「魔境シュタイン男爵家第十七代当主、カール・フォン・シュタイン。陛下に忠誠を誓い、ここに臣下の礼を取ります」
その声は低く、広間全体に響き渡った。
貴族たちはざわめく。先ほどまで狼藉の限りを尽くしていた熊のような大男が、
王の前で礼を尽くすなど誰が想像しただろう。
しかし、次に響いたのは嘲笑だった。
「辺境の熊も王の前では牙を抜かれるか!」
「夜会に浮かれていた田舎者が、ようやく己の立場を思い出したか!」
「さぁ、どう弁明する? 我らを楽しませてみよ!」
そんな中、王は冷ややかに言い放つ。
「辺境の小領主よ。そなたの拳は荒れ地を守るには足るかもしれぬ。だが王都においては羽虫同然。王族、公爵家、まして聖女に拳を振るうとは……いやはや稀代の大馬鹿者よ。この罪、おのれ一人で償いきれる罪ではないと思え!」
問われなかった……。
――なぜ拳を振るったのか。
――どんな想いがあったのか。
ただ一つ、「稀代の馬鹿」として断罪されようとしている。
――断じて承服できんな。
カールはゆっくりと立ち上がった……
その瞳は氷のように冷たく、広間を圧する。
「陛下。俺は、我が家名を侮辱されたから拳を振るった。それだけだ」
王が杖を叩きつけ、声が弾ける。「黙れ!」
「王の前で言い訳など!忠義の道理も知らぬか!」
「見ろ、やはり口先だけだ!」
「辺境の熊に忠誠などあるものか!」
その言葉に、カールの眉がわずかに動いた。
そして深く息を吐き……拳を握りしめた。
「――忠義とは、ただ跪くことではない」
低く重い声が広間を震わせる。
「俺は臣下の礼を取って王に仕える覚悟を示した。だが、拳を振るった理由も問わず、頭ごなしに軽んじる王に、何の価値がある」
その一言に、広間が凍りつく。
王の顔が朱に染まり、怒声が轟いた。
「そなた、王に……国に刃向かうか!?」
カールの眼光が雷のごとく王を貫く。
「一個人である自分を国家そのものと嘯くあんたに、”俺という人間”を理解してもらおう」
次の瞬間、拳が爆ぜる。
最前列に立っていた近衛騎士は鎧ごと吹き飛び壁に叩きつけられ、
続けざまに放たれた回し蹴りで、十人以上の騎士がまとめて宙を舞った。
悲鳴が響く中、カールは玉座の前に進み出る。
その巨躯が王を見下ろすだけで、空気が凍りつく。
「俺は忠義を示した。だが、お前はそれを踏みにじった。ならば、わからせるしかなかろう」
狂拳が唸りをあげ、王の顔を粉砕した。
鼻は潰れ、歯は砕け、王は椅子ごと崩れ落ちる。
床に転がる王冠は血に濡れ、絶望の沈黙が落ちた。
感動すら覚えそうになる凄まじい蹂躙を目にし、
誰一人として動くことができない……
「主君の器がない者に仕えるつもりなどない。口ばかりの腰抜けにもな。」
血に染まる大広間を背にカールは悠然と踵を返す。
その背中から放たれる覇気は、王国すら飲み込むかのようだった……。
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