彼女がエッチな変身ヒロインになったのはいいとして

あんぜ

第1話 鋼脚少女ヴァンキッス

 20XX年、日本は突如として出現した超次元生命体アルダトーの侵略に脅かされていた。神出鬼没のアルダトーは圧倒的な武力によって町を破壊し、生き延びた人々をさらっていく。日本は既に多くの都市や町が廃墟と化していた。人々は、このままアルダトーに滅ぼされるのを待つばかりかと思われたそのとき、ひとりの少女が立ち上がった。


 彼女の名前は鋼脚少女ヴンダーバインヴァンキッス。そのひと蹴りは、アルダトーの無敵のロボット兵を薙ぎ倒し、重力波ビームはアルダトーの超次元兵器を無力化する。ヴァンキッスが人々の希望となったのだ。



 ◇◇◇◇◇



『やっぱり、可読性に難があると思うよ、俺は』


 PCのメッセンジャーからメッセージが届く。弟の悠斗ユウトからだ。ユウトは有名な動画サイトで配信をしているTuberだった。ユウトはいつも、真っ先にヴァンキッスの現れる場所に出向き、生配信する。おかげで有名なキッス追っかけTuberとして名を馳せていた。


『本人が気に入ってくれてるからいいんだよ』


 PCの画面上には、さっきまでユウトが生配信していた動画が再生されていた。ユウトが自分を映しながら、器用にヴァンキッスの姿をカメラに捉えていた。映像にはユウトの手持ちのカメラとは別にキッスを追うドローンも居た。


 ヴァンキッスはピンクと白の競泳水着のようなボディスーツに申し訳程度の短いスカートを身に着けていた。長手袋オペラグローブ長靴下サイハイ、上半身にはケープ状の短いマントと、瞬時に武器へと変わる帯が垂れていた。


 相変わらず、どこのエロゲヒーローかと思うような井出達だったけど、実際にアルダトーのロボット兵からの攻撃を防いでいる以上、文句はつけられない。


『名前よりもデザインだよ。なんだよ、あの格好』

『超次元生命体とかいうやつの技術なんだって。ククルンの』


 ククルンというのは、ヴァンキッスの肩に乗っているマスコット。パンダによく似た謎の生物を装っているが、その正体はアルダトーと戦っているアルダトーとは別の超次元生命体。何がムカつくって、かわいいマスコットのフリして『ククる~ん』とか鳴くとこだ。子供たちや女性に人気があるのもムカつくし、名前もなんかムカつく。ひねりつぶしてやりたい。


『――あ、コケた』

『運動神経いいのになんでよくコケるんだろ。パンチラは撮れ高になるからありがたいけどさ』


 ヴァンキッスは無駄にパンチラする。おかげでキッスの配信人気はうなぎ上りだ。そもそも、蹴り技が主体な時点でスカートなんて意味無いのにスカート穿かせてることがおかしいんだよ。あと、露出が多いのも変。全身銀タイツマンとかの方が僕は安心して見ていられる。


『ククルンが言うには、キッスの力に振り回されてるんだって』

『まだまだ強くなるってことだよね、つまりは』


 そうだよ。強くなってくれないと困る。キッスには一日でも早くアルダトーを滅ぼしてもらって、日常生活に戻ってくれないと僕が困る。


 画面では、戦いを終えたキッスにユウトが近づいていっていた。キッスは壊された建物の瓦礫の中から町の人を助け出していた。アルダトーから町を護った上、さらに人命救助までこなしている。そんなすごいヴァンキッスなのに、助けたオッサンがエロい視線で彼女を見ることに腹が立つ。救助されたってのに馴れ馴れしく肩や腰を触ろうとするのもムカつく。


 ヴァンキッスの身体は、この世界の物質に干渉されないように特殊な力で護られている。それがないと、超スピードで動き回っただけで断熱圧縮の高熱が生じるらしい。だから、彼女には直接触れられないのだけど、ただ実際触れると、液体も何もないはずなのにヌルっとした感触があって変な気分になる。画面に映るオッサンがそれを感じていると思うとムカついた。


 ユウトはヴァンキッスに声を掛ける。キッスはユウトに挨拶を返した。キッスはもちろんユウトを知っている。表向きはTuberとして。そして私生活でも。


 何しろ、彼女の正体は僕の恋人、皐月 恋サツキ レンなのだ。


 そう、これはある日、僕たちの前に超次元生命体ククルンが現れたことから始まった物語。







◎ヴンダーバイン・ヴァンキッス(シルエット)

https://kakuyomu.jp/users/anze/news/16818792440206830336

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