転生しても天才じゃなかった

ronboruto/乙川せつ

第1話 転生、そして異世界

「よし、今日は初出社……気合い入れてくぞ!」


 何とも言えない普通の人生。別に天才科学者でも、伝説の傭兵でもない。普通に生きて、普通に勉強して、普通に就活して……そして、業界最大手と呼ばれる会社に就職できた。

 一生分の運を使ってしまったんじゃないだろうか、そう心配してしまうのは考え過ぎだろうか。高校、大学でもトップの成績を取ったことはなくて、いつも十位から三十位くらいをキープしていた。


 そんな俺が、自分の夢に手をかけたんだ。


 頑張っていこう、そう誓ったのに。


「……は?」


 上から隕石が降ってくるとか、聞いてないって。


 え? え? 隕石? 誰かメテオ使った? セフ〇ロスさん、滅ぼすの今じゃないでしょというかこの世界じゃないでしょ。


 アニメ・ゲームが好きな影響か、すぐにそういうことが頭に浮かんだ。


 状況を整理しよう。


 俺の名前は一条星イチジョウ・セイ。九大出身、本日初出社の超新人……。


 夢を膨らませ歩いていると……隕石が降ってきていた⁉


「いやどう整理してもありえねーだろ! なんだこのクソ状況、B級映画でももっとマシな導入から始めるぞ⁉」


 人生というZ級クソ映画にツッコミを入れるが、状況が変わるはずもない。刻一刻と隕石は迫ってきている。


 ああ、ここで死ぬんだな。


 逃げても意味はない。きっと爆風と熱で即死だ。なら、諦めて潔く――――――。


 ……死ねるかよ。


「俺ァ……今日から夢の生活を送るはずだったんだ……会社で時には怒られて、それでも成長して、彼女を作って、結婚して、子供をつくって……家族に囲まれて、大往生で死にたいんだ……それに……それに俺は!」


 童貞だ!!!!


 だから俺は、俺は!


「死にたく、ねぇええええええええええええええええ――――――っっっ!!!!」


 って無理だな。


 ああ、俺は、此処で死ぬんだ。さよなら。


 家族ともお別れか。先にあの世で待ってるぜ。できるだけ長生きしろよ。


 ……彼女の一人くらい、欲しかったなぁ……。


 ***


 ――――――瞼が重い。


 あれ、俺……生きてる?


 メテオは? 黒マ〇リアは?


 ホーリーを誰かかけてくれたのか……でも、あれ?


 目が明かない。何も見えない。というか、身体が変だ。

 なんか、妙に重い。でもなぁ…なんか……短く感じる。まさか隕石で四肢欠損⁉


 勘弁してくれよ……あ、でも指の感触あるわ。


 じゃあ、なんでこんな短く……。


「……ぁ」


 やっと目が明いた。さぁて、俺のムキムキボディは一体どうなって――――


 ――――――……いや、待て。


 ……は?


 あの、なんで……なんで赤子になってんのぉおおおおおおお⁉


 一条星、22歳。初出社当日に隕石が落ちてきて、気が付くと赤子になっていた件。




 なんとも無様に、男は死んだのだ。最後の咆哮も、意味がなかった。

 だが、男の生存本能と生きる意志が、世界の壁をぶち破ったのだ。そして男の魂はどこか遠い世界の命に宿り、生誕。



 つまり、異世界転生だ。

 ……何度状況を整理しても無茶苦茶だな。


 マジでどうなってんだよ、ラノベの異世界転生ってこんなだっけ?

 神様とか出てきて、チートスキル貰ってウッハウハ! ……とかじゃなかったかな。

 それがどうして、スキルもなく……どうみても一般家庭な両親に送られてんの?


 ねぇ、多分あの隕石神の手違い系でしょ。なら優遇してよ、責任とれよ。

 家族に会わせろや、神の野郎……会ったらブン殴る(会わないと思うけど)。


「ウィル・フィアルー・アン・カンナ。ウィル~」


 ……分からん。


 両親の言葉がまるで理解できない。いや、異世界なんだからあたりまえなんだけど。だからといって言語理解チート無しにいきなり一般家庭に放り込まれるとかイジメかよ、いやイジメじゃねぇ。立派な殺人罪だわコレ。多分。


「ァ、ぁあ……」


 赤子だから上手く舌も回らない。クソ、日本語が恋しいぜ。




 ……両親はふつーに美男美女だ。


 父は黒髪で、筋骨隆々。普段の顔は厳ついが、笑うと実にいい顔をしてる。母は金髪を長く束ねていて、まるで妖精のようだった。


 俺の名はウィル……というらしい。正確にはウィリアムだが、二人はウィルと呼ぶ。なんか、名前だけは恵まれてるなぁ。カッコイイ中二病みたいだ。


 前世じゃイギリスとかだったかな。


 ……いや待てよ?


 そもそもここは地球じゃないのか?

 転生してもどこか遠い辺境とか、すんごい過去とかかもしない。


 まぁどれでも最悪だけど、前者なら頑張れば……家族に会えるかも?

 その可能性があるなら……。


「アル」


「アリス……リア・グラー。シェナ・マイル?」


「アク」


 父が傷だらけで帰ってきた。あ、剣と鎧……傭兵で戦争か? ならいよいよイギリスの可能性が――――――。


「【フィーリアール】」


「……ぁ?」


 母がそう唱えると、父の身体が光を纏う。そして傷が塞がっていき……。


「アァナ」


「イァ」


「……」


 うん、確定だわ。


 ここ、異世界だ。

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