第2話 中トロの夢
マジシャンと呼ぶべきかは怪しいが、
吉野家でのマジシャンとの接触以降
僕の生活にはちょっとした変化が現れた。
自分の考え方によっては、
日々の平凡な生活にも面白味が出るのではないかと。
そう思えるようになった。
妄想のような形で
あれこれと想いをめぐらせることは
もともと好きだったし、
今までは目を向けていなかった
なんのことはない事にも、
フォーカスをあててみたら面白いのではと。
そんなふうに考えるようになった。
———
ただ、この気持ちの変化とは
ちょっと違う状況に出くわしている。
板前の手元にあるマグロのサクが
何か興奮気味に話している気がするのだ。
幻聴なのか、現実なのか、、
まだ分からないが、頭の中に
マグロの声が響いているのは確かだ。
🐟「回転だ〜」
やっぱり幻聴だろうか。
流石に毎日仕事を頑張りすぎただろうか。
えんがわが食べたくなって入った
ちょっと良さげな回転寿司屋で、
マグロのサクが話す内容に
耳を傾けている自分がいる。
マグロは、こんなことを訴えていた。
—————————
僕はマグロ。
正確にはマグロの中トロ。
僕の夢は人間に寿司されること。
世界中を冒険した
キハダのお兄さんが教えてくれたんだ。
「日本はやばい。魚の死体を回転させてる」
僕、ほんとに気になるんだ。
僕たちマグロが
人間に殺されてしまう噂は予々聞いてた。
殺された後に切り刻まれたり、
煮たり焼かれたりして、
最後には食べられてしまうって。
キハダのお兄さんが言ってた。
そんなお兄さんが、
ユッケって姿にされる前に
僕に教えてくれたんだ。
「日本はやばい。魚の死体を回転させてる。」
僕、ほんとに気になるんだ。
人間が育てた「米」と一緒に
食べられてしまう死に方を
寿司と呼ぶ噂は予々聞いてた。
でも、そんな残酷な殺され方をした後に、
回転させられるってどういうことだろう。
僕、気になって仕方なくて。
知るためには寿司されるしかないと思って。
で、僕一生懸命頑張って身体鍛えて、
寿司される可能性が高い中トロに成った。
努力の甲斐あってか、
僕は寿司されるための
場所に連れてきてもらえたみたい。
回転させられるってどういうことなんだろう。
ん、なんだあれは…
アッ!!!!!
🍣三 🍣三 🦐三 🍣三 🍙三
🍣三 🍵三 🐟三 🥚三 🍮三
うわうわうわうわうわうわ!
寿司されたみんなが回転してる!!!!!!
気持ちよさそうにスーッと
地上を泳いでら!!!!!!(?)
もしかして、寿司されるって
魚にとってかなり高尚な死に方なのでは???
これ、もしかして
魚史上最も名誉のある
死に方なのでは???
僕たちが死んだ後に、
海で泳いでいた頃を弔って
人間がわざわざ陸地で回遊をさせる。
えめちゃくちゃリスペクト感じる。
キハダお兄さんの言ってたことは
ほんとだったんだ。
日本では魚は死後回転させられるんだ。
そっかぁー、どうせ殺されてしまうなら
回転させてもらった方がいいよなぁ。
👨🦳「中トロひとつ」
👳♂️「あいょぉ!!!」
ア
いよいよ僕の番だ…
いよいよ回転させられる番だ!!!
お兄さん!今、逝きます!
👳♂️「あい中トロ」
どもー。
(咀嚼)
うめー。
えびいこうかねー次は。
「エビー!あいょぉー!」
え?
え?不具合?
あー、これ回転がない時もあるんだ。
抽選??
事前に抽選とか登録が必要な感じ?
キッズリパブリックとかで登録受付してた?
そっか。
僕死んだんだ。
…なんか缶詰に入れられて
監禁されることもあるって
キハダのお兄さん言ってたなー。
そっちだったかなー。
てかユッケってなに?
———————————
上遠野は中トロの一連の流れを見届けた後、
高熱が出たと確信し、仕事を早退した。
36.2℃だった。
いつもよりも低い。
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