第8話



…………


その夜。

俺は今日買ったばかりの不思議な眼鏡を手に、独り部屋で考えていた。


これ…いったいどういう仕組みで本音が見えてるんだ?

考えて見ても一切わからないが、それでもこの眼鏡はあらゆる人の本音が見えるすげー眼鏡なのかもしれない!


俺はそう思うと、その眼鏡を今は大事に折りたたんで枕元に置く。

本音があれだけくっきり見えてしまうことに抵抗はあるが、明日は仕事だし、もう少し…もう少しだけ。


どうせこんなに良いものが手元にあるんだったら、明日、こっそり会社の奴らの本性を覗いてやろう。

そしたら随分と面白いものが見られるかもしれない!

俺はそう思うと、早速明日に備えて寝室の電気を消したのだった。



******



普段の俺だったら眼鏡で出社はしないが、今日は珍しく眼鏡で出社した。


その理由はもちろん、“会社の奴らの本性を暴くため”。

俺は早朝から心を躍らせながら早速見慣れた6階建てのビルに入ると、受付に座っている若くてきれいな女性2人に挨拶をする。


「おはようございます」


しかし…


「あ、おはようございます」

「……?」


その後、数秒くらい彼女たちの方を見ていても、不思議と昨日みたいに何も文字が浮かんでこない…。

…うん?どうなってんだ?

しかしそう疑問に思ってもあまり用がないのにその場に留まるわけにもいかず、俺は受付の女性2人に少し不審がられながらも、やがてその場を後にする。

ところが、後にした直後だった。


「よっ!奏汰かなた

「!」


その時不意に、背後から同じ部署の男に声をかけられた。

その男の名前は「秋田」という。

俺がいつものように「おはよう」と返すと、秋田が俺の顔を見るなり口を開いた。


「…うん?あれ?何その眼鏡」

「ああ、これ?俺、目が悪いから」

「え、そうなん?じゃあいつもコンタクトだったのか」

「そうだよ」


…そんな何気ない会話を交わしていると、そのうちにそいつの背後からまた例のごとく文字がつらつらと浮かび上がってきた。


“コイツ…女にモテようと思って伊達眼鏡なんかかけて来やがって”


……はぁ!?


“だいたい、この前言った△△会社の見積の件どうなってんだよ。遅いんだよ仕事が”

“お前が遅れれば遅れるほどこっちが怒られるんだぞ”

“今日こそは見積書仕上げてくれるんだろうな!?”


「!!」


俺はそんな文字を見ると、思わず秋田の目の前で声を上げた。


「やべっ、すっかり忘れてた!!」

「え?」

「!」






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