第6話



そんなことを問いかけられるから、あまりの軽さに眼鏡をしていることをつい忘れてしまっていた俺は、そうだよと頷く。


「かーちゃん知ってた?××小学校の裏に雑貨屋があって、さっきそこで買ってきたんだよ」


しかし俺がそう言うと、母親が首を傾げて言う。


「…?さぁ。あの小学校の裏側って、普通の山じゃなかったかしら?」

「いや、それが、あったんだよ。魔女が住んでるみたいな雑貨屋さんが!」

「え?何それ」


母親はキッチンに立ちながらそう言って、信じていない様子だ。

まぁいいけど。

そんな母親に、俺が手に持っている高級弁当の存在を思い出して、


「かーちゃん、俺夕飯要らないよ」


そう言おうとしたら、次の瞬間そんな母親の背中の方からまたさっきの唯奈みたいな言葉たちがつらつらと浮かび上がってきた。


「っ…!?」


え、なに、なになになに…!?

かーちゃんからも出てくんの!?

まさか母親から出てくると思っても見なかった俺は、思わず母親の背後で目を丸くして立ち尽くす。


「…っ、」


“そんな変な眼鏡屋の話より、いつになったらこの子に彼女ができるのかしら。まさか本人に面と向かって言えないけど、この子はどうもイケメンなタイプじゃないのよねぇ…。その上、何をさせてもどんくさいんだから”


そんな文字を目にすると、俺は思わずショックで言葉を失う。

…かーちゃん…まさかそんなことを俺に対して思っていたなんて…。

そしてそう考えている間にも、また新たに文字が浮かんできた。


“何か一つくらい取柄があればいいのに”


「…!?」


…いやいや、かーちゃん!?

さすがにそれは酷くない!?俺って愛する息子じゃないの!?

そう思って、


「か、かーちゃんさ、俺まだ24だし人生これからだよ!」


思わずそう言って声をかけると、母親が不思議そうに言った。


「?…何、なんなの急に」

「だからさ、取柄なんてこれから出てくるって!なにもそんな、マイナス思考に考えなくたって」

「…」


そんな俺の言葉に、母親がキッチンであからさまな苦笑いをする。

その苦笑いに不安を覚えた直後、また母親から言葉が浮かび上がってきた。


“そもそも私をマイナス思考にさせてるのはお前だよ”


「っ…!!」


その文字に更なるショックを受けていると、そんな俺に母親が言う。


「でもね、奏汰。人生あっという間よ。お母さんはマイナス思考じゃなくて、物事を慎重に考えてるの。だってあなたって良いところが一つもないじゃない」


母親はそう言うと、何とも言えないジト…とした目で俺に目を遣った。





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