魔女が営む雑貨屋さん【眼鏡編】

みららぐ

第1話


最近、何だか眼鏡が見えづらくなった気がする…。


普段、会社やプライベートは基本的にコンタクトなのだが、家に帰ってテレビを見る時やゲームをするとき、会社が休みで家にこもる日などは眼鏡をかけていることが多かった。

もう5年ほどは変えていないから、そろそろ新しい眼鏡を作ってもらわなきゃな。

俺はそう思った翌日の日曜日に、昔から通い慣れている眼鏡屋さんに眼鏡を買いに行ってみることにした。


…が、しかし。

せっかく訪れたはいいものの、その眼鏡屋さんはなんと本日臨時休業だった。

せっかく眼鏡を買う気になったのに、そんなのってアリかよ!?

そう思ってスマホで他に店は無いかと探していたら、やがて俺はその例の「雑貨屋」に出会った。


店の名前は「Moon」という。

実際に行ってみたら、山を背に建つ小学校の裏側というなんとも不思議な場所にそれは佇んでいた。

まるで魔女でも住んでいるかのような…真っ黒な見た目をした何とも言えない雰囲気の建物だ。


…ま、早く終わらせて早く帰ろう。

眼鏡さえ新しくしてくれればそれででいいんだから。

俺はそう思うと、早速店の中に入った。


「すいませーん」


店内に入った瞬間、とてもヒンヤリとした空気に包まれた。

それと同時に視界に入ったのは、たくさんの眼鏡や時計、アクセサリーなどの雑貨品。

電気は薄暗いが、商品にはちゃんとライトが当たっているし、ガラスで出来たインテリアなんかはキラキラと輝いている。

でも、俺は「とりあえず今は眼鏡だ」と店の奥に目を遣ると、誰もいない店内に向かって再び「すいませーん」と呼び掛けた。


すると、その直後。

店の奥から「はーい」と返事が聞こえてきて、かと思えば店の奥から老婆が出て来た。

…70歳は過ぎているだろうか。

この年ということは、この店はかなり昔からあるのかもしれない。

確かに小学校の裏というわかりにくい場所にあるとはいえ、こんなところに雑貨屋があるなんてマジで初めて知ったぞ。

だけど俺は敢えてそんなことは言わずに、目の前の老婆に言う。


「あの、新しい眼鏡が欲しくて来たんですけど」


俺がそう言うと、老婆が言う。


「あら、今お兄さんがかけてる眼鏡じゃダメなの?」

「あ、ハイ。これはちょっと、何だか最近見えづらくて」


俺は事前に眼科で新しい眼鏡用に視力を測ってもらっていたから、眼科から貰ったデータを老婆に手渡した。


「これでお願いします」


…しかし、老婆は俺が手に持っている紙切れには目もくれず、俺に言った。


「だったらとっておきの良い眼鏡があるよ」

「…えっ」





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