第17章 魔導国エデン建国
「フィリア、準備はいいか?」
コントロールームで、レンはホログラムに映る海賊たちの様子を見ながら尋ねた。「はい、マスター。対象全員の独房から、中央ドームへの移送ルート確保、完了しています」
「よし、始めよう。彼らを俺の前に」
レンの静かな命令を受け、フィリアはシステムに指示を送る。その数分後、海賊たちは独房から引きずり出され、一つの広大な空間へと連れてこられた。
そこは、かつてレンがフィリアを見つけた、巨大な水晶のオベリスクがそびえるドームだった。「な、なんだ、ここは…」彼らはその神々しいまでの光景に、ただ圧倒される。中央には、レンが【万物創造】で生み出した、黒曜石のように黒く輝く、簡素だが荘厳な玉座が一つだけ置かれていた。
レンはその玉座に静かに腰を下ろし、フィリアを傍らに立たせていた。彼の前には、二十人の海賊たちが、武装を解かれた無力な姿でひざまずかされている。その光景は、まるで古代の王が、捕虜を裁くための法廷のようだった。「さて、と。裁判を始めようか」レンの静かな声が、広大なドームに響き渡った。
「さ、裁判だと…?」
船長であるギデオンが、戸惑いの声を上げる。「てめえに、俺たちを裁く権利があるってのか!」
「権利ではない。義務だ」
レンは平坦な声で答えた。「この島の統治者として、秩序を乱す者には、法に基づいて罰を与える義務がある」
「法だと!?ふざけるな!俺たちは海賊だ!そんなもんに縛られるか!」
「お前たちが縛られるかどうかは、問題ではない。法が、お前たちを縛るのだ」
レンはそう言うと、フィリアに目配せをした。フィリアは一歩前に出て、手に持っていたホログラムパネルを操作する。
「これより、『アルカディア基本法』に基づき、あなたたちの罪状を宣告します」
フィリアの無機質な声が、一つ、また一つと海賊たちの罪を読み上げていく。『不法侵入罪』『窃盗未遂罪』『殺人未遂罪』…。彼らがこの島に来てから犯した、全ての罪状が、揺るぎない事実として突きつけられた。
「な…!なんでそこまで…!」
「言ったはずだ。この部屋は、お前たちの全てを記録している、と」
レンの言葉に、海賊たちは絶望の色を浮かべた。自分たちの行動が、全て監視されていたという事実。それは、彼らの心を折るのに十分すぎた。
「判決を言い渡す」
レンは立ち上がり、厳かに告げた。「アルカディア基本法に基づき、お前たち全員に、終身強制労働の刑を科す。この島の発展のために、死ぬまでここで働き続けてもらう」
「しゅ、終身刑だと!?」
「ふざけるな!殺せ!いっそ殺しやがれ!」
海賊たちは口々に叫んだ。
だが、レンは静かに首を横に振った。「それはできない。言ったはずだ。俺の国に、無益な殺人の歴史は刻まない、と」
「…だが」
彼は一呼吸置いて、続けた。「お前たちには、もう一つの道を与えてやろう」
「な、なんだと…?」
ギデオンが、すがるような目つきでレンを見た。
「それは、俺がこれから創る、新たな国の『国民』になることだ」
「こ、国民…?」
「ああ。法を遵守し、国民としての義務を果たす限り、お前たちの生命と、最低限の権利は保障する。罪を償い、この国の一員として生きるか。それとも、罪人として死ぬまで働き続けるか。選ぶのは、お前たち自身だ」
海賊たちは、レンの言葉の意味を理解できず、ただ呆然としていた。その沈黙を破るかのように、レンは両手を広げ、高らかに宣言した。
「我が名はレン!この島の唯一無二の創造主にして、統治者!」
彼の声が、ドーム全体を震わせる。
「そして、今この瞬間より、この島アルカディアは、独立国家『魔導国エデン』となることを、ここに宣言する!」
その言葉と同時に、レンの背後で、眩い光の粒子が渦を巻いた。光はみるみるうちに布の形を成し、一つの巨大な旗へと姿を変えていく。
それは、深い青色を基調とし、中央に銀色の天秤と、それを囲むようにして立つ世界樹が描かれた、荘厳な国旗だった。完成した国旗は、まるで意思を持っているかのように、レンの背後でゆっくりと、しかし力強くはためき始めた。希望に満ちた、力強い国歌のような幻聴が、その場にいる全員の胸に響き渡った。
「魔導国…エデン…」
ギデオンは、目の前で起きた神の御業のような光景を、ただ呆然と見上げていた。岩の化け物を創り出し、無から食事を生み出し、そして今、国家そのものを宣言する男。自分たちが相手にしていた存在が、人間などという矮小なものではなかったことを、彼は骨の髄まで理解させられた。
「これが…王…」
誰かが、そう呟いた。その言葉に、他の海賊たちも、はっとしたように顔を上げる。彼らの目の前にいるのは、ただの小僧ではない。圧倒的な力と、揺るぎない法をその身に宿した、絶対的な支配者。彼らが抗うことなど、到底許されない存在なのだ。
レンは、玉座から彼らを見下ろしていた。前世では、誰かに支配されるだけの、無力な歯車だった。だが、今は違う。自分が、世界を創る側の人間なのだ。(これが、王になるということか…)その重圧と、何物にも代えがたい高揚感が、彼の全身を駆け巡っていた。
「さて、と。返事を聞こうか」
レンは、再び静かな声で問いかけた。「お前たちは、罪人として生きるか。それとも、我がエデンの最初の国民として、新たな生を歩むか」
その問いに、もはや否と答える者はいなかった。
最初に膝をついたのは、船長であるギデオンだった。彼はゆっくりと、そして深く、レンの前に頭を垂れた。「…俺たちは、あんたの…いや、エデン国王陛下の、最初の国民となることを、ここに誓います…」
その言葉に続くように、他の海賊たちも、次々と頭を下げていく。
それは、心からの忠誠ではなかったかもしれない。ただ、圧倒的な力への、恐怖と畏怖からくる行動だったかもしれない。だが、レンにとっては、それで十分だった。「よろしい。ならば、お前たちを、我が魔導国エデン、最初の国民として認めよう」
レンは、改めて自分の国を見渡した。臣下は、たった一人のアンドロイド。そして国民は、二十人の元海賊たち。あまりにもちっぽけで、歪な国家。だが、これは紛れもなく、彼がゼロから創り出した、彼だけの理想郷の、輝かしい第一歩だった。
彼の背後で、エデンの国旗が、静かにはためいている。この忘れられた島で、一つの新たな神話が始まった。彼はその始まりを、確かにこの目で見届けたのだ。
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