第13章 圧倒的な技術力の差
「う…ん…」
うめき声と共に、海賊船長ギデオンは重い瞼を持ち上げた。最後に覚えているのは、あの化け物じみた岩の人形の一撃。全身が軋むような痛みに、彼は顔をしかめた。「ちくしょう、俺は一体…?」彼は体を起こし、周囲を見回して、言葉を失った。
そこは、彼が知るどんな場所とも違っていた。床も、壁も、天井も、全てが継ぎ目のない滑らかな金属でできている。鉄格子はおろか、窓一つない。ただ、部屋全体が内側から淡く発光しており、奇妙なほどに明るかった。「なんだ…ここは…牢屋か…?」だが、それは彼の知る牢屋とは、あまりにかけ離れた光景だった。
「船長!ご無事でしたか!」
「お前らも、生きてたか…」
彼の部下たちも、次々と目を覚ます。幸い、死んだ者はいなかったが、誰もがゴーレムとの一方的な戦闘で傷を負っていた。「ここはどこなんだ…」「あの化け物どもに捕まったのか…」海賊たちの間に、不安と混乱が広がっていく。
「うろたえるな、野郎ども!」ギデオンは、己を鼓舞するように叫んだ。「どんな牢屋だろうが、俺たちが本気を出せば、壁の一つや二つ、ぶち壊せるだろうが!」彼はそう言うと、立ち上がり、力任せに金属の壁を殴りつけた。【ガン!】という鈍い音が響く。だが、壁には傷一つついていなかった。
その頃、レンとフィリアは、地下施設のコントロールームで、その様子をホログラムのモニター越しに眺めていた。「…全員、目を覚ましたようだな」
「はい。バイタルも安定しています。重傷者三名も、応急処置により、命に別状はありません」
「そうか」
レンは短く応え、モニターの中の男たちを静かに見つめた。
「マスター、これからどうしますか?彼らの処遇について、いくつかのプランを提案できます」
「いや、その前に、少し話をしてみようと思う」
「危険です。彼らは凶暴なならず者です」
「分かっている。だから、直接会うつもりはないさ」
レンはそう言うと、モニターの横にあるコンソールを操作した。
海賊たちが壁を叩き、悪態をついている、まさにその時だった。彼らの目の前の壁が、音もなく、すぅっと透明に変化したのだ。「な、なんだぁ!?」突然の異常現象に、海賊たちは度肝を抜かれる。透明になった壁の向こう側には、コントロールームに立つ、レンとフィリアの姿が映し出されていた。
「て、てめえが、この島の主か!?」
ギデオンは、自分たちを静かに見下ろすレンを睨みつけ、威嚇するように叫んだ。「小僧が!さっさとここから出しやがれ!そうすりゃあ、命だけは助けてやらぁ!」彼は、まだ自分の方が優位な立場にいると信じて疑っていなかった。
その虚勢に、レンは何も答えなかった。ただ、冷たい視線を返すだけだ。「フィリア、独房下部に小さな開口部を。それと、そいつの剣を一つ、こちらに渡させろ」
「了解」
レンの指示で、ギデオンの足元に小さな穴が開いた。「剣だと?ハッ、くれてやるよ!」ギデオンは得意げに剣を穴に放り込んだ。
剣はコントロールームの床に滑り出てきた。レンはそれを拾い上げると、ギデオンに聞こえるように静かに告げる。「お前たちの力が、いかに無意味なものか教えてやろう」彼がそう言うと、手に持った剣が、眩い光の粒子となって、サラサラと崩れ落ちていったのだ。
「な…!?俺の…俺の愛剣が…!」
ギデオンは、目の前で起きた現象を理解できなかった。海賊たちの力の象徴である剣が、一瞬で光の塵に変わってしまった。その光景は、どんな暴力よりも雄弁に、彼らの絶対的な敗北を物語っていた。(こんなことが…あり得るのか…?)レンの心にも、その力のあまりの理不尽さに、わずかな寒気が走った。
「…………」
海賊たちは、目の前で起きた奇跡を理解できず、ただ沈黙した。彼らの最後の砦であったはずの「力」が、赤子の手をひねるより簡単に無に帰されたのだ。「魔法…なのか…?いや、こんな魔法、聞いたこともねえ…」ギデオンの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
「次は、怪我の治療だ」
レンは、今度は重傷を負ってうめいている海賊の一人に視線を向けた。そして、再び【万物創造】を発動させる。男の傷ついた腕の上に、光の粒子が収束し、緑色に輝く小さな瓶を創り出した。
「なんだ、こりゃ…?」
男が戸惑っていると、瓶の蓋が自動で開き、中の液体が傷口に降り注いだ。
次の瞬間、信じがたい光景が広がった。痛々しい裂傷が、みるみるうちに塞がっていくのだ。複雑に折れていたはずの骨も、ゴキリという音を立てて元の位置に戻り、痛みは嘘のように消え去った。「な…治った…!?傷が、完全に…!」男は自分の腕を信じられないという顔で見つめている。
その光景は、海賊たちの心を折るのに、十分すぎた。剣や斧が通用しない、岩の化け物。継ぎ目一つない、破壊不可能な牢獄。そして、無から食料や、神の奇跡のごとき薬を創り出す、謎の男。自分たちが相手にしている存在が、ただの人間ではないという事実を、彼らはようやく理解したのだ。
「う、うわあああああっ!」
一人の海賊が、恐怖に耐えきれず叫び声を上げた。ギデオンは、わなわなと震える拳を握りしめたまま、その場に膝から崩れ落ちる。「悪魔…か、神か…」彼の虚勢は、圧倒的な力の差の前に、木っ端微塵に砕け散っていた。戦意は、もはやどこにも残っていない。
レンは、彼らが完全に沈黙したのを確認すると、再び壁を不透明に戻した。「これで、少しは話を聞く気になるだろう」
「はい。対象全員の敵対意思が、ゼロになったことを確認しました」
フィリアが、無機質な声で報告する。
レンは、静かになった独房のモニターから目を離した。彼の心に、勝利の高揚感はなかった。ただ、支配者としての冷たい責任感だけが、ずしりと重くのしかかっている。前世で嫌悪した、力による支配。それを、今、自分自身が行っているのだ。
「だが、これも、俺の国を守るためだ…」
彼は自分に言い聞かせるように呟いた。理想郷を創るためには、時に汚い役目も引き受けなければならない。彼は、その覚悟を改めて胸に刻んだ。「フィリア」
「はい、マスター」
「尋問の準備を始めろ。彼らから、外の世界の情報を、一つ残らず聞き出すぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます