第5章 古代文明の遺跡
ブラックウルフとの死闘から数日が過ぎた。レンは島の探索を続けながら、着実にその生存能力を高めていた。「この島は本当に素材の宝庫だな。一歩進むごとに新しい発見がある」彼はすっかりこの世界のサイクルに順応し、日々の成長に確かな手応えを感じていた。もはや彼の装備は、心許ない石のナイフ一本ではない。
鋼の毛皮を丹念になめして作った頑丈な鎧、ミスリルの爪を鋭利に加工したダガー。それらは全て、彼がこの島で得た素材と、【万物創造】の権能で生み出した逸品だ。「そろそろ、この森のさらに奥深くへ進んでみるか」彼は未知への尽きない好奇心に突き動かされ、まだ足を踏み入れていない密林地帯へと向かった。
そこは、今まで以上に木々が鬱蒼と生い茂る、まさに手付かずの原生林だった。幾重にも重なる天蓋が太陽の光を遮り、昼間だというのに薄暗い。湿った土の匂いと、むせ返るような植物の濃密な匂いが辺りを支配している。「空気が重いな…。魔物の気配も、一段と濃くなっている気がする」彼は警戒レベルを引き上げ、慎重に歩を進めた。
しばらく進んだ、その時だった。彼はふと、目の前の光景に強烈な違和感を覚えた。大蛇のように絡み合う巨大な木の根が、何か不自然な物体を抱き込んでいるのだ。「なんだ、あれは…?」それは岩でも土でもない。鈍い金属光沢を放つ、明らかに人の手によって創られた何かだった。彼は茂みをかき分け、その謎の物体へと近づいていく。
「嘘だろ…?」目の前に現れた光景に、レンは思わず息を呑んだ。それは、天を衝くほどの巨大な壁だった。苔むし、無数の蔦に覆われてはいるが、その材質は間違いなく金属。表面には、彼の知識体系にはない幾何学模様がびっしりと刻まれている。「こんなジャングルの奥深くに、なぜこんなものが…?」周囲の自然とはあまりに不釣り合いな、異様な存在感を放っていた。
彼は恐る恐る、その冷たい壁に手を触れてみる。ひんやりとした無機質な感触が、彼の掌に伝わった。「間違いなく金属だ。だが、鉄じゃない…?」彼はすぐさま、その未知の物質に意識を集中させる。
【ピコン】
「解析、開始!」
《対象:超硬度合金(オリハルコン・アダマンタイト複合材)の解析に成功しました》
《内部に未知のエネルギー循環システムを確認。解析を継続しますか?》
「オリハルコンにアダマンタイト!?それに、未知のエネルギー…?」彼の脳内に流れ込んできた情報に、レンは愕然とした。それは、前世の物語の中にしか存在しなかったはずの、伝説級の超物質だったのだ。
「この壁は、いったい何なんだ…」彼は壁に沿って歩き始めた。それは地平線の彼方まで続いているかのように、延々と続いていた。しばらく進むと、壁が途切れた場所に、一つの巨大なゲートが姿を現した。寸分の狂いもなく閉じられた、継ぎ目のない一枚板のような金属の門だった。
「これが入り口か…。だが、どうやって開ける?」取っ手も、鍵穴もない。ただ、門の中央に、掌ほどの大きさのパネルが埋め込まれているだけ。そのパネルは、まるで生命体のように、淡い青色の光を静かに明滅させていた。「もしかして…」彼は何かに導かれるように、そのパネルへと手を伸ばした。
彼の手がパネルに触れた、まさにその瞬間。【ブゥゥン…】という静かな起動音が響き渡り、パネルが眩い光を放った。
《生体情報スキャン…遺伝子情報に特異パターンを検出。適合率98.9%》
《暫定マスターとして認証。ゲートへのアクセスを許可します》
凛とした、それでいてどこか人間味のない女性の声が、直接彼の脳内に響き渡った。
ゴゴゴゴゴ…、と重々しい地響きを立て、巨大な金属の門が静かに左右へとスライドしていく。門の向こう側には、全てを飲み込むかのような深淵の闇が広がっていた。「暫定マスター…?俺のことか?一体どういう理屈で…」混乱する彼の思考をよそに、闇の奥から、ひんやりとした空気が流れ出してくる。それは、外の湿った空気とは全く違う、乾いて澄み切った古代の空気だった。
レンは一瞬ためらったが、彼の魂が持つ探求心が恐怖を上回った。「行くしかない、か」彼は意を決し、暗闇の中へと一歩足を踏み出す。彼が内部に入ったのを感知したかのように、背後で門が音もなく閉じた。完全な闇と静寂が、彼を支配する。だが、それも束の間だった。
【フゥン…】という微かなハミング音と共に、彼の頭上の天井が、等間隔で淡い光を灯し始めた。それは通路全体を照らすほどの明るさではなく、まるで彼を誘うかのように、奥へと続く光の道筋だけを浮かび上がらせる。「…自動照明か」明暗のコントラストが、通路の壁に収められた未知の機械群のシルエットを、より一層神秘的に際立たせていた。
彼は光に導かれるように、ゆっくりと通路を進んでいく。コツ、コツ、と彼の足音だけが、永遠の静寂の中に大きく響き渡る。壁には時折、未知の金属でできたパネルが埋め込まれ、そこには理解不能な文字や図形が明滅していた。「まるで、巨大な宇宙船の胎内にでもいるみたいだ…」
やがて通路は、一つの巨大な空間へと繋がっていた。彼がそこに足を踏み入れた瞬間、部屋全体が純白の光に満たされる。あまりの明るさに、彼は思わず腕で顔を覆った。「ここは…!」光が収まった時、彼の目の前に広がっていたのは、人の想像を絶する光景だった。
そこは、ドーム球場が丸ごと収まりそうなほどの、巨大な空間だった。そして、その中央に鎮座していたのは、天を突くほどの大きさを持つ、巨大な水晶のオベリスク。その内部では、まるで捕らえられた雷神のような青白い光が絶えず荒れ狂っており、【ゴォォ…】という星の脈動にも似た重低音が、空間全体を震わせていた。
「なんだ、あれは…。この遺跡の、心臓部…動力炉か…?」彼はそのあまりに神々しい光景を前に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。オベリスクの周囲には、見たこともない複雑な機械群がいくつも設置され、無数の太いケーブルが接続されている。「あれが、この施設を数千、いや数万年と動かし続けているのか…」
「この島に、こんなものが眠っていたなんて…」彼は改めて、自分が流れ着いた場所の異常さを思い知らされた。ここはただの無人島などではない。遥か太古に滅びた、超高度文明の遺産そのものなのだ。「サバイバル生活のつもりが、とんでもない冒険になってきたな…」彼は乾いた笑みを浮かべた。
彼の脳裏に、一つの確信が芽生えていた。この遺跡を理解し、その力を掌握できたなら、彼の【万物創造】は、さらに上の次元へと至るだろうと。「この力の正体も、俺がここに来た理由も、全ての答えがここにある気がする」彼の瞳には、もはや恐怖の色はない。あるのは、真理を解き明かさんとする、探求者の強い光だけだった。
レンは、ドームの中央に鎮座する水晶のオベリスクへと、ゆっくりと歩みを進めた。彼の足音だけが、静かな機械の駆動音と共鳴する。この島の真実へと続く道が、今、彼の目の前に開かれたのだ。サバイバルから冒険へ。物語の舞台は、新たな局面を迎えようとしていた。
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