月の雫に君を見た夜

月原 悠(夕月かんな)

プロローグ

*縦組みでお読みいただけると幸いです。スマフォからは横組みでしか読めないようですね……横書き用も作りますので、好みに応じてお読みください。


 小川のせせらぎはまるで僕を誘うように、今から起こりえる予感を与えようとしていた。僕は一人、田舎の旅館に泊まりに来ている。旅館の女将の勧めで、僕は小川に向かうことにした。夜風は、僕を現実から幻想の世界へ導いてくれているかのように運んでくれて、鈴虫の音さえ川の音と絡み合うようで心の中に染みわたるようだった。

 ここに来た訳は君への想いにかられたからだ。あの頃は夢に溢れていて、見渡す世界が物珍しく見えたものだった。いつからだろうか。孤独に襲われて逃げるように殻の中に閉じこもったのは——

 君が奏でるピアノの音色が好きだった。優しい音色で僕を夢中にさせたじゃないか。どうして、もう君はいない——あるのは僕の想いだけ。

 僕は川に映る月の雫に君を見た。それは間違いなく幻想ではなく僕の想いだった。姿なき今こそ君を想うことにしよう。

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