第23話 VRMMO ブルーホライズンへ大抜擢

9月14日(木)明成学園 


祐也が消え10日ほど過ぎた。


1時間目の授業は、政府公式発表のため中断された。期待と興奮でざわつく教室に千斗が緊張した顔で入ってくる。


「おいジン、今回の発表……祐也の重大な話らしいぞ」

「らしいな。……嫌な予感しかしない」

ジンが低く答えると、マナは泣き出しそうな顔をしていた。


「まさか、何かあったとか……」

「まだわからない。でも何かが起きたのは確かだ」

ミナがモニターを見つめながら、静かに言う。


教室の空気が一気に張りつめた。

「――始まる」


画面に学園長が登壇する姿が映り、朗々と告げた。


「みなさん。我が校の生徒、梅研修中の城戸祐也君が、このたび“日本平和大使”に就任いたしました。のちほど中継で本人から挨拶があります」


「日本平和大使? そんなの初めて聞いたぞ」

ざわつく生徒たち。期待と羨望が入り混じる中、ただ一人マナだけが顔面蒼白になり震えていた。


モニターに正装した祐也の姿が現れる。

「明成学園のみなさん、お元気ですか。1-Rの城戸祐也です。こちらが僕の今の学校です」


背後には窓から海が広がり、整った部屋や最新設備、笑顔で訓練に励む映像が映し出される。


スタジオからの声が続く。

「はい、祐也さん。続いて――お母様が繋がっています」


画面に涙ぐむ母の姿が映る。

「祐也……本当におめでとう。元気そうで安心したわ」

「ありがとう母さん。結構大変だけど、なんとかやってるよ」

祐也は爽やかに笑い、学園中が拍手と歓声に包まれた。


「質問コーナーです。附属小学校のみなさん、どうぞ」

「平和大使って、なんですか?」

無邪気な声に祐也は笑顔で答える。


「ありがとう。みんながいつも遊んでいる“ブルーホライズン”――あのゲームの公式キャラクター”アークブレイブ”を、僕が担当することになったんだ」


「すごい!」「祐也先輩が、アークブレイブ!」

教室中が歓喜の渦に包まれる。


生徒代表、君島レン君から、励ましのエールをいただきましょう、スタジオでレンはインタビューに答える。


「祐也……栄誉ある大使、就任おめでとう!同じクラスメイトの一員として、君を誇りにおもう。頑張ってくれ。クラス全員で応援している」

「ありがとう。レン!君も頑張れ」


その夜。


「おかえりなさい、レン。今日は生徒代表の挨拶、お疲れ様でした」

AIミナの声が、部屋に入った彼を迎える。


レンは制服のネクタイを乱暴に引き抜いた。

「最悪だったよ。……俺がまるで引き立て役だ。馬鹿にしやがって」


「そんなことないです。レン。私は、いつもレンを見ています」優しい声に、レンはしばし目を閉じる。


だが次の瞬間、冷たい光がその瞳に宿った。

「――必ずぶっ潰す。俺のΩNovaでな」



一方、モニターを――

見つめるマナの心は別の場所にあった。彼女の脳裏に、二年前の光景が蘇る。


兄・隼人が「日本平和大使」に任命された日。晴れやかな舞台、拍手喝采の中で、兄はどこか遠くを見ているような目をしていた。


「マナ……大丈夫だ。頑張るから見ていてくれ。

ぎこちない笑みを浮かべて去っていった。


最後に再会した兄は別人のようになっていた。無表情で「任務に戻る」とだけ告げ、妹の問いかけには一切応えなかった。



(祐也君まで……同じ道を歩まされるの?)

マナの指先は震え、視界がにじむ。その瞬間、脳裏に兄の声が鮮やかに蘇る。


――「マナ……ノアポイントを、信じろ」


最後のその言葉だけが、胸に焼きついて離れなかった。華やかな歓声と拍手に包まれる教室で、ただ一人、マナだけが必死に涙をこらえていた。


――続く。

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