第6話
なかなか質問に答えない私を不審がったのか、王様の眉間に皺がよった。
「何を考えておる。こんな簡単な質問にも答えられぬのか」
王様の近くにいた数人の兵士が剣や槍などを構え始めた。もうこうなったら正直に言うしかない。
「わからないんです。私はその……転生してきた者なので」
「……ほう」
血の気が引いた。いくらなんでも言葉が足りなさすぎでは!?
もう少しあったはず、アシリアはこの国の人だけど魂は違う……みたいな。でももっとこんがらがりそうだしこれでよかったのかな?
あと視線が怖すぎる。お父さんも喧嘩した時、こうやって鋭い視線を向けてきていた。もう勘弁してほしい、膝が震えてきた。
「……嘘ではないようだな。異世界人か」
スッと私に纏っていた静かな殺気のようなものが消えた。少し息がしやすくなる。
「異世界人が来ることは珍しいが、あり得ないことではない。……ここに呼ばれた理由は理解しておるな?」
「み、未来視に私の容姿の特徴と一致する少女が現れたと、お聞きしました。私が困難を乗り越える鍵になると」
まだ上擦ったままの声で答える。
「誰からだ」
「シエルさんです。私を、ここまで連れてきてくれた」
個人名ってもしかして言わない方がよかったかもしれない! 脳内で頭を抱え、かといってもうどうしようもなく王様から視線を逸らす。さっきから私は自分の発言に対しての反省会しか開いていない。
「――よかろう。其方の言い分が虚偽でないことを認める」
予想と反した言葉がかかり、思わず王様の顔を見上げた。
「シエルの誠実さなら預言の話を聞かされていることも筋が通る。そしてこの目が其方に流れている異質な力をとらえているのには違いない。ふむ、通行証を渡そう」
先ほどまで武器を構えていたはずの兵士たちはいつの間にか武器をしまい、代わりに私に一枚のカードのようなものを差し出してきた。
何か書いてある……けど読めない。
『通行証と書いてあります』
ふと聞き覚えのある声がした。この声はサポートの?
『そういえば文字に触れる機会がなかったのでそちらへの対応を忘れていました。これで読めるはずです』
サポートの人がそう言うと同時に何かが私の脳内に入り込んでくる感覚があった。
周りを少し見渡してみるが、兵士たちは私が通行証を受け取るのを待っているだけのように見える。さっきの声は私にしか聞こえないのだろう。
再び通行証に目を向けると、先ほどまで不可解な記号の羅列だと思っていたものは、文字として認識できるようになっていた。
“エトラエル王国 国外通行許可証 アシリア・セルヴィー”
銀色に輝く金属の板のような重みを感じさせるそれに、そう文章が彫られている。作るのに時間がかかりそうなものなのに、ご丁寧に名前まで入っていた。
私が今日来ることも、王様の不信感を煽らずやり過ごせることも、もしかして全て王様の未来視とやらで把握されていたのだろうか。だとしたら私は王様に試されていたってことになるんだけど……。
「その力をもって世を救うことを期待しておる。下がれ」
「は、はい」
ようやく退出できる! 一刻も早く苦手な部類の人間がいる空間から距離を置きたい。入ってきた扉から出ようとすると、
「それと、言い忘れていたが」
と呼び止められた。びっくりして思わず肩が震える。
「私に会うことはそう簡単なことではない。忙しいからな。万一通行証を紛失した場合、すぐに再発行できると考えてはならん」
そもそもそんな大事なもの無くさないって! とは思ったが、一応返事はして王様の部屋から出る。
「アシリア様、お待ちください」
そのまま帰ろうとしたところ、兵士のひとりに呼び止められた。
「通行証発行にあたりお金を徴収させて頂きます」
――
「つっかれた〜〜〜!!」
城を出て先ほど馬に乗っていた時に通った街の中心部へ近づいてきたところで、私はようやく大きく息を吸った。
すごく怖かった。目上の人と話すことがあまりない上、お父さんと見た目的にも年齢が似ていて緊張と恐怖が混ざってとんでもないことになりそうだったが、なんとかやり過ごせた……。
それと、帰りもあの無駄に長い階段を降りなければならなくて大変だった。城で働いてる方達は毎日あの地獄のような階段を往復しているのだろうか。
今日は適当にご飯を買って、宿を見つけてそこで休もう。
通行証の発行にかかったお金は結構痛かった。手持ちがほぼ持っていかれて気が遠くなるかと思った……。
この世界のお金の価値が分からないけど、硬貨ならまだ残ってる。もし泊まれなくてもご飯くらい買えるだろう。
とりあえず周りを見て回ろうかな。ご飯はレストランとかじゃなくて、その道中に美味しいものがあったら、って感じにしよう。
街の雰囲気は、イメージとしては商店街というよりお祭りの時の売店が沢山並んでいるイメージの方が近いかもしれない。洋服店やジュエリーショップなど貴重なものを売っている場所以外は出店のようになっていて、食べ歩きできるものを売っているお店は調理過程をその場で見られるようだ。
街の中だと照明がたくさんあるからランタンを使わなくていいのはありがたい。ずっと点けてると熱くて仕方がないから。
「そこの可愛いお嬢ちゃん!アップルパイでも食べていかないかい?」
物珍しさと直に感じる異世界の雰囲気に圧倒されていると、気さくなおばちゃんから声をかけられる。その手にはパイ生地にのった溢れんばかりのりんごたち。りんごの甘い匂いが私の鼻腔を掠めた。
「お値段はたったの75レイ。お買い得だよ!お嬢ちゃんでも買えるだろう?」
聞き慣れない単位を聞いて、いい香りで上がっていた私の気分は下がり、焦りの感情が湧いてきた。
「これで足りますか?」
一応持っている硬貨を全部出してみるが、
「あはは! 何言ってるんだい、お嬢ちゃん。そりゃ50レイしかないよ!」
と言われてしまった。ご飯も買えないなんて! 通行証で思ってたより持っていかれたみたいだ。
「お嬢ちゃん? 買わないのかい?」
おばちゃんから催促される。いい香りにつられてお腹が鳴る。私のお腹はこういう絶体絶命の時でも鳴っていて呑気だ。
「すみません、私――」
「これで」
断ろうとした矢先、私の左横から誰かが手を差し出した。手を差し出した人の方を見ると、思わず見惚れてしまうほどの美貌を持つ男の人がいた。
黒髪をセンターで分けて、暗い海の底のような深い青色の目を持つ男の人。私より少し年上だろうか?ミステリアスでどこか儚げな雰囲気が、彼の羽織っているポンチョのような変わった形のロングコートと噛み合っている。イケメンという言葉で一括りにするのは失礼なくらいかっこいい。
「あら、お嬢ちゃんのボーイフレンド? 言ってくれたら割り引いたのに!」
おばちゃんは勝手に恋仲と判断して、私とその男の人に「お代は一つぶんで結構よ」と一個ずつアップルパイを渡してくれ、すぐに常連さんであろうお客さんに声をかけに行ってしまった。
後には、私とイケメンが残った。
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