第6話 1億3000万年

草むらから飛び出してきたのは、白い巨大なトカゲだった。


グルウゥアーッ


「やばい! コエロフィシスだ!!」


僕は叫んだ。実は恐竜好きだったので、大概の恐竜を知っていたのだ。


コエロフィシスは体長2〜3mほどで、小型の恐竜ではあるが、肉食だ。

小動物や昆虫を食べていたとされるが、もし人間と共存していたら、子供はターゲットになったのではないだろうか。


「こっち見てるって…どうしよ…」


悠真も泣き出しそうだった。


しかし、勢いよく飛び出してきた割に、その場で止まっている。


「ふう、危なかったね。」


内田先生だ。僕は尋ねた。


「これは、どういう状態(笑)?」


先生はニコッと笑顔で話し始めた。


「パラレルワールドではね、念じることで時間を止めることができるの。止める以外に、時間を戻すことも進めることも可能よ」

「念じるって、どうやるん?! もう怖すぎて無理!」


悠真は、もう半べそをかいていた。


「わかりやすく言うと、夢の世界みたいなものなの。心で思うだけでいいのよ。コントロールできるのは時間だけだけどね」

「ちなみに、今コエロフィシスに食べられていたら、どうなっていたの?」


僕は恐る恐る質問した。


「それは大丈夫。噛みつかれた時点で、元の世界に戻されるわ。夢から目覚める感じで」

「死なへんねや! なら良かったあ!」


僕と悠真は、顔を見合わせて安堵した。


「重症になったり命を落とすという心配はしなくていいわ。でも、佐藤君だけが噛まれていたら、佐藤君だけが元の世界に戻ることになる。私たちが残ったこのパラレルワールドに戻ることはできないの」

「みんなも一回戻らないと、一緒にこの世界を回れないってことか!」

「そう、また戻って本に手を置いてって面倒くさいでしょ(笑)」


先生は、少し悪そうに笑った。


「ほんま面倒くさいわ! 悠真、頼むで!」

「俺だけちゃうやろ、そっちもやんけ!」


動きの止まったコエロフィシスの前で、みんな笑っていた。


「さあ、なぜ滅亡するのか、調べに行きましょうか……でも、いつから疫病が流行するのかしら」


僕は、先生にもわからないことがあるんだなあ、と思った。


「滅亡するタイミングに飛ばされるわけではないん?」


悠真が尋ねた。


「移動した途端に滅亡しても意味が分からないでしょ(笑)? 恐竜の時代は長かったから、もしかしたら真実のかなり前かもしれないわ。」

「それなら大丈夫!」


僕は自信満々に言った。恐竜マニアの知識が役に立つときが来たのだ。


「コエロフィシスは、恐竜時代の初期の生物やから、今から1億3,000万年後あたりに移動すればいいんちゃう?」


先生も驚いた表情だ。


「田中君、恐竜のことがそんなに好きだったのね! 助かる! その時代に移動して、色々と観察してみましょう!」


先生はスッと手を差し出した。

僕らもその上に手を重ね、目を閉じた。


またも、宇宙空間のようなところに身が投げ出された。


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