第25話 反撃の罠
キッチンで一通りの洗い物を終えた知佳は、首を鳴らしながら溜息をついた。
理神庵に
自分ではそんなことは無いと思っていたが、洗い物や掃除洗濯、片付けなど、慣れていないことをやって、いかに自分がお嬢様育ちで何もやらずに生活してきたかを痛感することになった。
死んだ母親もそうだし、新しい母親もやってくれていた。
今となっては、自分のしでかしたことよりも、何もできない子供の自分のとった一人よがりの行動に、情けなさで涙が出そうになる。
そんなことを思いながら、最後の客が使ったカップ類を片づけているところに、リュウがヒョイッと顔を出す。
「知佳。終わったか?」
リュウは
「あ、はい……今、終わりました」
手を拭きながらシンク周りの水気を
世間知らずな知佳を、リュウは面白がって色々教えてくれたが、知佳にとってはムカつく反面、本当にありがたい事だったと思っている。拒絶されることなく、身も心も不安定な自分に居場所を与えてくれた奈々とリュウは、新しい人の絆を与えてくれたのだ。
リュウはキッチンをしげしげと見ると、
「へぇ、知佳も綺麗に洗いものが出来るようになったじゃん」と茶化した。
「この位、すぐに出来るわよ!」
知佳はツンとした表情で言い返す。
相手が冗談で言っているのは分かっているものの、この鼻っ柱の強さは自分でも制御が出来なくて、相手を怒らせるのではないかと、ちょっと自己嫌悪に陥ってしまう。
知佳の懸念をよそに、リュウは気にした風もなく「おお怖っ」とおどけて見せた。
「それよりもさ、ボスが呼んでるぜ」
「奈々さんが?」
何か失敗でもしただろうかと不審に思いながら、奈々のいる仕事場へと向かった。
奈々は壁際に置かれたソファに、その長身を投げ出すように預け、スラリとした足を組んで分厚い本を読んでいた。
「あの? 何か用ですか?」
近寄って声をかける。
奈々はゆっくりと顔を上げ、薄灰色の大きな目を知佳に向けると、
「知佳ちゃん、こういう場合は“何か御用ですか?”って聞くものよ……」と窘められた。
知佳は小さく頭を下げると、
「あ、すみません……何か、御用ですか?」
と改めて問い直す。
奈々は読んでいた分厚い本をそっと横に置くと、手招きをしてソファを指す。
知佳が恐る恐る奈々の横にちょこんと腰を掛けるのを見計らって、奈々が口を開いた。
「知佳ちゃん。ニュースよ」
「ニュース?」
「どうやら蟷螂事件の目星が付いたみたい」
「え……」
「これでやっとここでの軟禁生活も終わりを迎えるわね」
「……」
無言で固まった知佳を見て、奈々は不思議そうな顔になる。
「なんか……嬉しくなさそうね」
「え! いや、嬉しくないなんてことはないです。ちょっと……急なことで信じられなくて……」
「そう……ならいいけど」
じっと顔を見られて、知佳は心の底を
「まぁ、そうは言ってもね、すぐに解決とまでは行かないようよ」
「……なんでですか?」
「さぁ、色々とあるそうよ……これからまたここに集まるんですって。だから……」
奈々は優雅にキッチンを指差し、
「人数分のお茶を用意しておいてね」
と言ってにっこりと笑った。
「分かりました」
否も応も無い。皆、知佳のために夜遅くまで頭を絞っているのだ。
そう思いながらキッチンに再び戻った知佳は、やかんに水を入れてお湯を沸かす準備を始めると、自分の気持ちに整理をつけるため、深呼吸をした。
奈々から蟷螂事件の解決が近い事を聞いたとき、自分でも意外なほどに感動が無かった。むしろ、ここから出て行かなくてはいけないという寂しさが先に立ってしまった。
「まだ逃げようとしてるのかな……」
思わず口に出る。
知佳は下唇を強く噛み締め、自分を客観的に見ようと努力する。
今、しなくてはいけないことは、蟷螂事件と向き合い、居心地の良いこの仮の巣箱から勇気を出して飛び立ち、本当の巣へ、自ら温めなくてはいけない巣へ戻ること。
里見知佳という人間が、強く大地に立てるように……
ビシッ! と勢いよく自分の両頬を引っ叩き、
「よし!」
と気合を入れると、奈々に教わった紅茶の入れ方に従って準備を始めるのだった。
その夜、午後10時。理神庵に、メンバーがぽつぽつと集まり始める。
最初に現れたのは海上だ。やや落ち着かない様子で入ってくると、軽く手を上げて奈々たちに声をかけた。
「よう、知佳ちゃん。どう? 体壊してたりしてないかい?」
「はい、大丈夫です」
知佳の返事に安心したように頷くと、次に奈々の方へ向かって訊ねた。
「奈々。あれから周りはどうだ?」
「特に何も。まぁうちの背後をいたずらに刺激したくないって言うのもあるんでしょうけどね……」
他愛のない話をしながら待っていると、百合たちが到着したらしい物音がした。
今回はシュバルツ・カッツェの恵理子も参加してきた。知佳は恵理子と会うのは初めてだ。
お互い挨拶すると、恵理子はマジマジと知佳の顔を覗き込み、一気にまくし立てた。
「まあ! ばり可愛か子ね〜! ほんにお人形さんみたいやん。……え、なんね? お給仕させられよると? ほんとに? おもろかこと言うねぇ! こんな所で働きよったら、顔が曇るだけたい。どうせならウチに来んね! よかろ? そうしよ! はい、決まり決まり!」
出会い頭の博多弁マシンガンに、知佳は引き
「あ、でも待っとってね! 美弥子ちゃんの仇、ちゃんと取ってからやけん。…あ、そっかそっか! 仇取ったら、知佳ちゃんも助かるっち言うことやんね! やーん、丁度よかやん! ね?」
応対に困った知佳が目で方々に助けを求めると、海上が苦笑しながら立ち上がった。
「おいおい、恵理子。大概にしておけよ。知佳ちゃん完全にドン引きしてるぞ」
「しゃあしかポンコツ刑事が! 自分で考える脳ミソもないけん、うちらに泣きついて来よるくせに、偉そうに口きくなや!」
べーっと舌を出して挑発する恵理子に、
「……一言もねぇ、一言もねぇが。相変わらずムカつく猫娘だ……」
と呟いて、こめかみを痙攣させていた。
「あらまぁ、賑やかね。とりあえず掛けてお茶でも。知佳ちゃん特製の紅茶よ」
苦笑しながら言う奈々の言葉に、それぞれが手近な席に着いた。
みゆきは隅っこの椅子に腰かけながら、紅茶を淹れて回る知佳の様子を伺う。
いつも通りの無表情でありながらも、前回とは違い、何か腹を決めたような凛とした雰囲気が漂っているのを感じ取った。事件の解決が近いのであれば、恵理子の言う通り知佳の解放も近いという事だ。その解放は決して自由への扉ではなく、狂言誘拐を企図して世間を混乱に陥れた女子大生というレッテルが貼られる地獄の蓋だ。その容易に想像できる恐ろしい未来へ、真っ直ぐに前を向いて歩いていく。そんな気概が静かに溢れている。
集まったメンバーの周囲に温かく芳しい紅茶の香りが満ちていく。
知佳の注いで回る姿に、恵理子は「ねぇ〜、やっぱりウチで働きんしゃいよ〜」と、
それをいなしつつ、ポットを置いた知佳が百合の隣の席に座るのを見届けると、まず奈々が口を開いた。
「……さてと。海上さん。蟷螂事件の解決が近いって……そう伺いましたけど?」
だが当の海上は眉を
「ちょっと待て。まぁ解決が近そうっちゃ近そうなんだが……」
海上は一旦言葉を飲み込むと、一同を見回して話始めた。
「最有力のホシ候補が絞れたってだけだ……まぁ聞いてくれ」
海上はそう言うと、百合の推理通りに勾玉を中心に捜査を進めた所から話を始め、公安調査庁への問い合わせの結果、勾玉に異常執着するような過激な宗教団体は存在しなかった事。しかし10年前のGemCrystal強盗殺人事件の主犯格の証言から、犯人グループの中に、GemCrystalにある宝石を探す大学生が二人おり、その内の一人が実行犯に加わった。その一人は当時北山大学の大学院生であった事。そして当時の学生名簿に非常に怪しい人物の名前を発見したことを、時系列に沿って語った。
「その怪しい大学院生って、だ、誰だったんです?」
遂に事件の核心に迫りつつある事を感じ取ったみゆきは、思わず身を乗り出す。
みゆきだけではなく、その場にいる全員に力が入っていた。
「その大学院生の名は……木村 透。ArtElroyの社長だ……」
海上はゆっくりと最重要容疑者の名を口にした。
「あ、ArtElroyってまさか……!」
いち早く察したみゆきが声を上げると、海上は深く頷く。
「そう、人気アプリ『ひよランド』の開発元だ」
「なるほど……開発者でもある木村氏であれば、目的を絞ってユーザーのやり取りなどを覗き見するのも自由自在……というわけですね」
百合が得心がいった様に頷く。
「ああ、つまり、蟷螂事件の被害者たちは明確につながった、と言っていい」
だが海上の表情は何故か冴えない。
「そしたら、なんでさっさと捕まえに行かんとね!?」
恵理子はイラついたように立ち上がると、吠えるように言った。
「そうですよ! こんな所で油売ってる場合じゃないじゃないですか!」
みゆきも腰を浮かし気味にして、恵理子に賛同する。しかし、海上は二人にチラリと目は向けたが、依然として渋い表情のままだった。
その様子を見て、奈々は真っ赤な唇の口角を上げる。
「なるほど……そもそも踏み込みたいけど、踏み込めないって事ね?」
奈々の言葉に、また全員の視線が一斉に海上に注がれる。
「奈々の言う通りだ……木村を蟷螂事件の容疑者として引っ張るだけの理由がねぇ」
「でも、さっきのリストとか勾玉の話とか……」
みゆきの言葉に海上が首を振る。
「勾玉の件はまだ公になってないんだよ。リストも蟷螂事件のキーというよりは、GemCrystalの強盗殺人事件の裏付け証拠の位置づけなんだ……」
なんで、と言おうとして、みゆきは言葉を飲み込む。
勾玉の件は、海上が独自に仕入れたネタを元に、ここで百合が推理しただけだ。
「やけどさ、あえて事ば公にして、警察が一気に木村ば確保するっち言う流れにはできんと? 次の事件が計画されとっても、それも防げるっちゃろうが」恵理子も不服そうに訊ねる。
すると、海上ではなく奈々が口を挟んだ。、
「恵理子さん……百合さんが組み上げた推理って、全て状況証拠なのよ……勾玉の事にしたってそう……」
「それは、そうかもしれんけど……」
「そんな状況じゃ、中々理解してもらえないわ……それに、もしも動いてくれたとしても、証拠固めに走る中で、重要参考人の知佳ちゃんを血眼で探しかねないわよ……だから何かこう、有無を言わさぬ証拠を掴んで、知佳ちゃんに目が行かないようにしない限りは、下手に公には出来ないのよ……」
知佳は伏し目がちに聞いていたが、意を決したように顔を上げると、
「あの……私は、もう構いません。いくらでも事情聴取なり受ける覚悟はあります! もう、これ以上皆さんにご迷惑おかけできないし、何より、でないと……お願いです! 次の犠牲者が……私のせいで次の犠牲者が出る前に木村を捕まえてください!」
大きな両目を見開き、知佳は叫ぶように言った。
「里見さんは、その……今無理に出ても仕方がないわけです……」
知佳とは対照的に、百合の落ち着いた声が部屋に響く。
「例え、里見さんを見捨てて木村を確保に向かったとしても、当の本人に知らぬ存ぜぬを通されたらですね、今の警察に木村を攻める手立ては無いわけです……そうすれば、重要参考人として身柄を抑えられた知佳さんの方が、かなり厳しい取り調べを受ける事になってしまうことも考えられるわけです……」
ここで紅茶に口をつけ、一息入れて続ける。
「要するに、里見さんが出ようが出まいが、やらなければならないことは二つ……一つは木村が再びの犯行に及ばないよう、しっかりと監視する事……もう一つは、木村から動かぬ証拠を得る事……です」
海上は強く頷くと、安心させるように知佳の方を向いて笑った。
知佳も少し重荷が解けた表情で、薄く微笑み返した。
「で、もう一つ……確固たる証拠だが……これは難問だ。被害者から奪った遺留品。勾玉でも持ってて、それを抑えられりゃ良いが、それには家宅捜索の令状が必要だし……」
「いっそ木村んちに忍び込んだら、よかやん?」
それは犯罪だ。恵理子の悪魔の囁きは言下に否定される。
「となると……自白ね?」
奈々の言葉に百合は顎に手を当て頷く。
「ですね……ただ、正面切って問い質したとしてもですね、正直に言うとは思えないわけです……やるとしたら、気は進みませんが……」
「罠に……
百合の考えを読んだ奈々は、にやりと笑って代弁した。
「罠に
「10年前の事件の容疑者としても有力である木村なわけでして、もし警察がそちらの件で先に確保してしまった時に、蟷螂事件の真相が闇に葬られる、または解決が相当遅れると思われるわけです。そうなると、里見さんがここを出るタイミングが無くなってしまう恐れが出てしまいます……なので、早期に解決するにはですね、罠に嵌めてでも木村は蟷螂事件の犯人として逮捕されなければならないのです」
みゆきは、知佳の手にわずかに力が入るのが見えた。
「ただですね……まだ情報が少なすぎて、どんな風に誘導すればよいかが……」
眉間の皺を崩さずに、百合はこめかみを揉む。
「情報と言えば、木村について思い出したことがあるんだが……」
海上の手には手帳が開かれていた。
「いや、一番最初に木村の会社ArtElroyにユーザーデータを貰いに行った時の事なんだけどな? あいつ静岡の浜松の方の出身だって言ってたのさ」
「浜松? ヤマハ、スズキ、ホンダの発祥の地ですね?」
「……随分渋い覚え方だな」
「……そこは普通ウナギよ。みゆきちゃん」
みゆきに海上と奈々は同時に突っ込む。
「ま、話を戻してだ。ヤツの出身地の事を聞くきっかけが、オフィスの神棚だったんだ」
「神棚……? ですか?」
百合がスッと顔を上げる。
「ああ。お札やらお守りやら……あと、なんだ? 切腹の時に使う台」
「
「ああ、そんなやつだったな。で、空っぽのそれが飾ってあったのさ。あんまり盛大に飾ってるんで目についたんだが、聞いたことのない神社でさ。浜松だと言ってたって訳さ」
「何という神社ですか?」
「ええとな……」
流石にメモをしていなかったのか、宙をにらんで記憶を手繰る。
「ああ、思い出した。
「たもきみ神社?」
全員が声を上げ、互いの顔を見て確認し合う。
「……知りませんね。……聞いた事もないです」
百合の顔が一層険しくなり、切れ長の目が輝きを増す。
「アレやない? タモアミ。きっとタモアミの神様っちゃない!」
「……タモアミの神様なんているのかしら?」
奈々が笑いながら言う。
「おるやろう。日本には
「そうだけど……そんな凄くニッチな神様を
「ニッチかどうかは分からんよ? 浜名湖の近くやろ? ウナギが一杯
「それは網なら分かるわよ……何でタモアミ限定なのかしら?」
「そんなこと分からんちゃ。
恵理子と奈々のどうしようもないやり取りの横で、百合は沈思黙考の姿勢を崩さなかったが、ふいにおでこを指でトントンと叩き始めた。
明らかに独り言が大きくなってきている。不安を覚えたみゆきに、奈々が人差し指を唇に当て、しぃーっとサインを送った。
「たも……たも……たも……たも……の……きみ……たも、のきみ? たものきみ!」
弾かれたように顔を上げた百合は、大声を上げて立ち上がった。
「お、おい! 百合! どうした!?」
「あれやん!
「あら、百合さんって霊媒体質だったかしら?」
「……紅茶のお替り入れましょうか?」
「ちょ、ちょっとみんな落ち着いてくださいっ! 静粛にっ! 甲斐沢先生!」
慌ててみゆきが場を鎮め、皆の意識を百合に注意を集中させる。
百合は、叫んだ後、しばらく天井を見つめていたが、ゆっくり首を戻すと、興奮を抑えるように静かに語り始めた。
「あの……たもきみ。どこかで聞いた記憶があったように思っていたのですが、やっと思い出しました……字は違いますが、『たものきみ』、と呼ばれた歴史上の人物がいます」
話す百合を、皆固唾を飲んで見守る。
「そう……正確には、
あてりい? 恵理子は首を捻る。
「一般的には
「ああ、ああ、アテルイね……」
「……恵理子さん、知らないでしょ?」
「……はい」
奈々の容赦ない突っ込みに、恵理子はしゅんとする。
「
みゆきが早口に説明すると、百合がその後を受けた。
「はい……
「東北では人気あるけどな」東北出身の海上が言う。
「発展途上の地域が、先進の都の軍隊を押し返し苦しめたという事実が、東北地方の民衆には胸のすく話として語られ、神格化していったわけです。……さっき海上君が言いましたけど、東北地方の英雄トップ3に上がったこともあります」
「へぇ……それは知りませんでした。そんなに人気あったんですね。でも……
みゆきは首を傾げる。
「そこは……分かりません。少なくとも研究されている資料に静岡……浜松であるなら遠江国ですが、その近辺で何かがあったという記録も事跡も無い筈でして……」
「と、言うと歴史学というより、民間伝承の類ってことですね?」
「あるいはそうではないかと……」
「となると、あれか? 一連の蟷螂事件に見え隠れする勾玉ってのは……」
海上に百合は頷きながら答える。
「はい……
「失われた? なぜ分かる?」
「ええ……その、先ほど聞いたGemCrystalの強盗殺人事件の実行犯の内、学生二人がバーで勾玉を奪う密談をしていた、という話でした。その、つまりですね、いつかは分かりませんが、
「ってことは、木村が探していた勾玉はGemCrystalにあるってのか?」
「分かりません……あるかも知れないし、無いかも知れない……ただ確実に言えるのは、木村が今でもそれを探している、ということだけです」
「今でも?」
「はい……蟷螂事件は、GemCrystalが販売した勾玉、それも限定ものに狙いを定めているわけでして、明らかに明確な目標を持って犯行に及んでいると考えられるわけです」
――GemCrystalの特別限定品、これが件の神社にあった勾玉が混じって世に放出されている、その可能性を追って、持ち主を殺し、奪った――
そんなありそうもない、常人には想像もつかない
「さっきから気になっとうんやけど……」
全員の眼が恵理子に向く。
「その十年前ん事件のさ、犯人の大学生と、もう一人いたんやろ?」
「ああ、そうだ」
「ひょっとしたら、そのもう一人の学生が犯人ちゅうことはなかと?」
座は一瞬静まり返り、ハッとして皆が海上に顔を向ける。
だが、海上は慌てる風も無く、むしろ残念そうな顔をして、
「残念だがそれはないな」と否定した。
「なぜなら、もう一人はGemCrystal襲撃事件に参加してないそうだ」
「それは本当なんでしょうか?」
「小金井が言うには、もう一人ってのは話を聞いている時も乗り気じゃなかったらしく、むしろ木村を
「時間が人を変える事も……」
「それを言い出すとキリがないのさ。その可能性は排除できないが、とにかく今は木村に専念して、犯行を暴き、もしも共犯なりがいるなら、速やかに身柄を抑えるのが先決だ」
海上の強い言葉に、皆黙る中、百合が再び話を続ける。
「世に出なかった
百合は一拍置いて、切れ長の目を海上の方に向けると、
「これは使えると思うわけです……」といった。
場に走った緊張感で静まり返った場を、切り裂いたのは奈々だった。
「なるほど……
「はぁ~えげつないな~」
恵理子は嘆息するが、百合の表情は変わらず、
「知佳さんを自由にし、蟷螂事件に終止符を打つには、この方法しかないのです……」
と重々しく言った。
恵理子が肩を竦めると、場が再び静かになり、皆一様に顔を見合わせる。
“罠に
しかし百合は瞳を光らせて余裕の笑顔を見せるのだった。
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