第3話
お義父さんの件では俺も母さんもかなり落ち込んでいた。ただそれよりも酷かったのが真希だ。
遼太郎さんの余命宣告を受けてからの彼女は生きる気力そのものも無くしてしまったようになっていた。
俺に対する罵りも見下したような物言いも影を潜め、ただ息をしているだけの幽鬼のような雰囲気に変わってしまう。
『お父さんがいなくなっても、お義母さんや雅史くんと仲良くするんだぞ。いつまでも意地張っていられたら父さんもうかばれないからな。あはははっ』
生前お義父さんは真希に対して自分がいなくなったあとのことを何度も何度も繰り返し伝えていた。
一人娘を遺してしまうことに対する後悔や憂心は俺なんかでは想像もできないくらいに辛いものだと思う。
診断から2ヶ月が過ぎる頃、お義父さんの恰幅の良かった体格も目を背けたくなるほどやせ細り、親族である俺でさえもそろそろ駄目なのかもしれないと感じてきた頃、真希は一度家出をする。
たぶん俺と同じように最期のときが近いことを察し、気持ちの持って行き場もなく耐えきれなかったのだと思う。もし、俺の立場でもその場に残り続けるのは難しいんじゃないかなと強く感じるから。
その頃、学校には毎日無理やり俺が真希を連れて行っていた。そうしないと、1日中ベッドの中に蹲って一歩も部屋から出てこなくなるからだ。
気持ちは分からなくもないが、俺たちが塞ぎ込んだところで事態は好転するわけもなく、逆に暗い顔を見せればお義父さんにも心配をかけてしまう。
そもそも普段通りに生活してほしいと言うのもお義父さんの希望だったので俺も気力を絞り頑張った。
授業中の真希へのフォローはできないが、休み時間の度や放課後等はとにかく世話を焼いてやる日々。口応えしてこないだけマシだったとはさすがに言えないけど。
そんなある日だった。真希がいなくなったのは。
いつものように朝、真希の部屋まで彼女を起こしに行くとベッドはもぬけの殻。パジャマ代わりのスウェットシャツは脱ぎ散らかしてあり、開けっ放しのタンスには漁った跡がある。
他にもなにかないかと部屋中を検めてみると、机の上にメモ用紙が一枚。
「ちょっと出てくる、って……」
とりあえずは本当に気分転換で何処かに学校をサボって出かけているだけだろうと思って特に俺からは行動は起こさず、その日は俺一人で学校に向かった。
その日の夜。8時になっても真希は帰ってこず、母さんにも連絡は一切ないという。ここで初めて真希が家出していったのではないかという可能性にたどり着く。
真希の行きそうな場所なんて心当たりがまったくない。彼女との交流を避けていたツケがこんなところで出てくるなんて想像すらしていなかった。
「母さん、どうしよう。やっぱり警察に捜索願い出したほうがいいんじゃないのか?」
「そんな大事にしたら遼太郎さんが心配して大変なことになるわよ」
「……そりゃそうだけどよぉ。じゃあ、どうしたらいいんだよ? 母さんはあいつが行きそうなところに思い当たる場所はないのか」
「そんな事言われても……。そうだわ、遼太郎さんのアルバムに何かそれらしい場所があるかもしれないわ」
藁にも縋る気持ちでお義父さんのアルバムを開く。子供の頃の真希の笑顔がそこにはあった。
真希の家庭は真希が小学1年生のときに実母が家を出ていったことで終焉を迎えている。出ていった細かな理由は知らないが、彼女の母親に新しい男ができたとかいう話を聞いたことがあった。
「家族3人で写っているのがこれが最後で、次からはお義父さんと真希だけになってる。多分だけど、このどっちかに真希はいるんじゃないかって思う」
二人だけの写真はとあるテーマパークなのでどこだかすぐに分かったが、親子3人の写真は桜の花の下での写真なのでどこなのか全くわからない。
「母さん、やはりお義父さんに聞かないとだめだよ。もう夜は寒い季節だし、猶予はないと思うんだ」
「わかったわ。スマホは病室でも使えるから事情を説明してこの場所について教えてもらうわ」
「俺はこのテーマパークに行ってみるから、その間にこっちの場所を調べておいて。わかったらすぐに連絡してくれ。捜索願は最終手段な」
それだけ言い残して俺は駅へと走った。
そのテーマパークは自宅から電車で1時間ほどの場所にある。近いこともあって、近隣の家族なら何度でも行くような場所だった。
「近場にいてくれたらほんと有り難いんだけどな。入場口は……閉まってるっと。中にはもういないのは確実だな」
閉園後ということで探す手間が一気に増えた。もしここに真希がいたならそう遠くには行っていないと思う。
とにかく虱潰しに行きそうな場所を探していくことにする。
今は初冬よりの晩秋で桜の木も葉が落ちてあっちに行ったところで何もないと思ったので、こっちのテーマパークに真希がいると俺は踏んでいたのだけど全く見当たらない。
パーク帰りっぽいひとにも声を掛けてみたが、真希を見た人は一人もいなかった。
「ハズレなのか……」
ガードレールに腰掛けて項垂れているとスマホが鳴った。母さんからだ。
「もしもし、何かわかったのか?」
「遅くなってごめんね。遼太郎さんの状態が少し悪かったみたいで連絡が取れるまで時間がかかったの」
「そういうのは仕方ないよ。それよりこっちに真希はいないみたいだから、例の桜のほうじゃないかと思うんだ。だから場所がわかったならすぐ教えてほしい」
「ごめんね。あの場所は————」
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