義妹と生活すること
403μぐらむ
第1話
久し振りの長編。スローペースでお願いします・・・
※
義妹。
漫画やラノベみたいな物語ではポジティブな存在として描かれてることが多いと思う。主人公である義兄のことを好きになったり、そこまでいかなくとももの凄く甘えてきたり。
でも実際はそんなに都合の良いものではないと声を大きくして言いたい。この世界線にはご都合主義なんか一つもないんだよ、ってね。
「おいアンタ、邪魔だからあたし眼の前から消えてくれない?」
ほら、言っている傍からこれだよ。この声が俺の義妹の発するお言葉だよ。
「うるせーな。そんなにも嫌ならば真希の方が何処かに行けばいいじゃないか?」
「あ゛あ゛? 口答えするとは上等じゃないの。あんたにそんな権限はないし、殴られたくなかったらさっさとそこを退いてハウスにでも帰りなさいよ」
「ハウスだとぉ? 犬と一緒にするな!」
「はっ! あんたよりは犬っころのほうが従順なだけましよ」
ああ言えばこう言う。こいつに口喧嘩で勝てたためしはない。負けを認めたくはないが、これ以上不毛な言い争いは精神衛生上もよろしくない。
真希と一緒に住むようになってそろそろ3年になるがいい加減俺も疲れてきた。
いまさら母さんに義父さんと別れてくれなんて言えないが、せめて俺だけでもこの家からは出ていかせてもらいたい。毎日毎日胃がキリキリするような思いはもう嫌なんだよ。小学生でストレス性胃炎とか悲しすぎる。
母さんが真剣な顔して話をしてきたのは俺が小学校3年生の夏休み直前の頃。そのとき初めて「会わせたい人がいる」と言われる。その人が後に義父になる高嶋遼太郎さんだった。
遼太郎さんは見た感じも話した感じも悪くなかったし、母さんが一人で俺のことを育てているのがいかに大変なことかも俺は理解っていた。だから俺に母さんの選択を拒否する理由なんて一つもないんだ。
俺はこのとき二つ返事で、二人の再婚を認めてしまう。これが後にとんでもない事が起きる序章であることなんてこのときは知る由もなかったのだが。
「実はね、僕にも子どもがいるんだ」
「へ~、そうなんだぁ」
母さんに俺がいるように遼太郎さんにも子どもがいるのは特に疑問にも思わなかった。
「雅史くんと同い年の真希という娘なんだ。雅史くんより3ヶ月生まれが遅いからいもうとになるのかな? いい子だからぜひとも仲良くしてやってほしい」
「!!……えええっ、ほんとうに!」
一人っ子だった俺に義理とはいえ妹ができるなんて考えてもいなかったので内心ものすごく喜んだのを覚えている。
真希との初対面は遼太郎さんと会った翌週の週末だった。その日は朝から雲一つないよく晴れた日だったんじゃないかと思う。信じられないほど暑かったのだけはよく覚えている。
「こんにちは! はじめまして、司雅史です」
「……高嶋……真希」
それだけ言うと視線だけでなく顔も背けるようにしてしまう彼女に俺は最初、人見知りで緊張しているのか照れているのかなんて思っていた。
「僕たちは用事を片付けてきちゃうから、暫くの間そこのファミレスで雅史くんと真希で待っていてくれないか」
「はい」
「……うん」
お義父さんと母さんが二人で行ってしまったので、俺は義妹とファミレスでジュースなんか飲んで待つことになった。
「真希……ちゃん。何か飲む? おとうさんがドリンクバーを注文してくれたから何か飲むなら取ってくるよ?」
「……」
聞こえていなかったのか真希は窓の外に顔を向けたまま何も答えない。
「あの、真希ちゃん? 飲み物なんだけど——」
「うるさい! あんたに真希ちゃん呼びされると虫唾が走る。それにあたしのパパはあんたのおとうさんじゃないからね! 勘違いしないでよねっ」
彼女の小学校3年生には見えないような大人びた顔立ちに怒りが込められていておっかないんだけどキレイだななんて的はずれな感想を持ったが、呆気にとられたというのが大半だったので直ぐに忘れた。
俺は意味がわからずただ口を噤むことだけしか出来なかったと付け加えておく。
母さんたちの結婚自体はすでに決定事項だったらしく、そこに俺達子どもの意見は反映されることは元よりなかったみたいだった。その日母さんは婚姻届を提出して、俺の名字もあっという間に司から高嶋に変わった。
子どもの引合せから結婚までがあとから思えば早いような気がするが、俺たちの預かり知らぬところで準備はしっかりしていたんだと思う。ま、何か言われても9歳のガキじゃなんも役にはたたないだろうけど。
結婚後の両親は仲睦まじかった。俺とお義父さんの仲もまずまず。お義父さんは男の子とキャッチボールをするのが夢だったなんてテンプレなことを言っていたが、それは本当らしくすぐさまグローブとボールを2人分買って来るくらいだった。
問題は真希と俺たち。真希は母さんのことはお義母さんとは呼ばず、名前の美佐さんとしか呼ばない。しかも、余程何かがない限りはその名前さえ呼ばず無言か「あの」とか「すみません」しか言わない。
最悪なのは俺と真希の関係。義兄妹なんて関係はまず皆無。特に彼女が俺に声をかけるようなことさえ一切なかった。完全なる無視。俺のことはいないものとして扱われていた。
その後3年過ぎた頃には少し話すようになったけど、最低限の連絡事項を伝え合うだけで話をするとは到底言えないような状況なのは冒頭の通り。
相変わらず真希は俺や母さんに強く厳しく当たるし、心を開くつもりは欠片もないようにしか見えなかった。
それでも母さんは真希を家族として見ていたし、口喧嘩をすることはあっても喧嘩するぐらいには仲が良くなったなんて楽観的に考えることも偶にはないこともない。俺はと言うと、無視まではいかないがかなり真希のことなんかどうでもいいって思っていたかもな。君子危うきに近寄らずって感じでね。
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