第5話 発端 その五

隊長の叫び声に周囲が驚く中、先生は再度隊長へ先に進ませてほしいと頼んでいく。


「……頼む。先に行かせてくれ」


「……わかりました。どうぞ」


「隊長⁉」


こんな先生の再度のお願いに、隊長は迷わず許可を出して先に進ませる事にする。

この隊長の決定を隣で見ていた部下が困惑の声を上げる中、先生はディアナ達を連れてシェルターの中に入っていった。

そんな先生達を見送る形になった隊長と部下。

そんな中で部下は、隊長に何故あのような決定をしたのか、納得がいかないといった表情で尋ねていく。


「……」


「隊長、どうして……」


「……後で説明する……今は任務の続きだ」


「……隊長……」


「……すまん……」


隊長の返答で部下はこれ以上の質問は出来ないと判断して、自身の任務である避難民をシェルターに誘導していく仕事を再開させる。

一方その頃、順番抜かしの形で先に進む事になった先生に、ディアナが不安そうに声を掛けていた。


「……あの、先生、大丈夫なんですか?」


「ああ、大丈夫だ。何も問題は無いぞ」


「……そうなんですか?」


「ああ、もちろんだ」


ディアナの質問へ胸を張って答えた先生に、今度は少年達が声を掛けていく。


「なあ先生、あの時先生はあの人に何を見せたんだ?」


「あっ、それ。僕も気になっていたんです。自警団の人があっという間に先へ行かせてくれましたし……」


「……先生?」


少年達の質問を聞いたディアナも、興味津々な視線を先生に向ける。

その複数の視線に後ろめたい感情を抱きながら先生は、この場では軽く答えるに留め、早く先へ進もうとディアナ達に声を掛けていく。


「……うん、まあ、なんだ。昔ある知人から貰ったフリーパス券みたいな物を見せただけだ。そう気にするな」


「ええー、なんですかそれ?」


「ちゃんと答えてくださいよ?」


「まあそうなんだが、今は先に進む事の方が優先されるからな。だから詳しい話はまた後で。良いな、お前達?」


「……はーい」


「わかりましたー……」


「……ふふ……」


自身の返答に対するディアナや少年達の反応を見た先生は、ほんの少しだけ笑顔を見せると、その後は先の様子を見るようにしながら、ディアナや少年達から目線を変えていった。

そんなやり取りをしながら先に進んでいった先生とディアナ達は、遂に住民達の避難場所まで辿り着く事に成功して、ゆっくりと腰を降ろして落ち着く事が出来たのである。

その為ディアナや少年達は、先ほどの話の続きを聞かせてもらう為に、先生に話し掛けていこうとした瞬間、先ほどの自警団の隊長と部下がこちらに近付いてくる姿が見えた為、ディアナ達は質問が出来なくなってしまう。

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