無くしてから気づく愛


(ご主人...お腹空いたよ...寒いよ...早く帰ってきて...ご主人)


僕は、犬だ。僕には、大好きなご主人が居る。でも、最近は、忙しいらしくて遅くまで帰ってきてくれない。それでも僕は、ご主人の言うことをちゃんと聞ける良い犬なんだ。


ガチャッ


玄関の扉が開いた音だ!ご主人が帰ってきた。早く沢山遊んでもらいたいなぁ。そうとなれば、おもちゃを持っていかなきゃ!


「わんわん!」

「...うるさい、どっかいってこの犬っころ」

「わふっ!」

「チッ...どっかいってって言ってんでしょ⁉」


ドンッ...


(ご主人?なんで蹴るの?痛いよ…)


犬は、女の機嫌を損ねたことにより暴力を振るわれた。確かに、たった今蹴られたが、昔は、こんなことをしなかった。だから、犬は、昔の主人の姿を信じて近寄った。


「くぅーん...わん」

「はぁ?なんでこっち来るの?うっざっ。視界に入ってくんなよ」


ドンッ、ガッ...


「くぅーん、くぅーん」


(ご主人、ご主人。本当にどうしちゃったの?昔は、こんな風じゃなかったのに)



□■□■□■


数年前


「※※!」

「わん‼」

「はぁ、癒される~。※※のお陰で明日からも頑張れるよ~ありがとう※※!」

「わふっ‼」


(あぁ温かいなぁ。幸せだなぁ。ご主人の元で一生暮らすんだ~)


女は、犬に向けて沢山の愛情を注いでいた。犬は、女に沢山の愛情をお返しにとあげてきた。幸せのループがそこには、あった。いつまでも続くと思われた時間が。


「※※、絶対に幸せにするからね。毎日遊んであげるからね。沢山の愛情をあげるからね」

「わんわん!はっはっは」

「※※が嬉しそうで、私とっても嬉しいなぁ。そうだ、今日は、何をする?なんでも良いよ」


こんな日常がずっと続けば良いのにね…



□■□■□■


少し時が経ち...


「なっ...んで。なんで!なんで私を裏切ったの?なんでなんでなんでなんでなんで」

「くぅーん...」


(ご主人、どうしたの?最近ずっと不機嫌だね。僕と遊べばご機嫌になるかな?)


「わん!」

「...何?あぁ、遊んでって?後でにして。今そう言う気分じゃないから」

「くぅーん...」


(ご主人がそう言うなら…)



□■□■□■


それからまた少し時が経ち現在に戻る。


(ご主人もうあれから全然遊んでくれなくなったし、さっきも蹴られちゃった。僕が悪いのかなぁ?僕が居るからご主人は、あんなにも機嫌が悪くなっちゃったのかなぁ?...それならもういない方がいいよね?きっと。ご主人の為ならなんでも出来るのが僕なんだから)


犬は、家を出た。家は、マンションで階段を降りて、外に出て走った。


「かわいいわんちゃんね。どうしたの?何処かに向かってるのかなぁ?」

「グルルルルッ」

「おやおや、大丈夫さ私は、安全よ。ほら、こっちにおいで」

「わん‼」


犬は、走った。話しかけてきた人物の横を通り抜けて、追いかけてこれないように全力疾走した。


(なんなんだ?アイツ?凄く凄く嫌な奴だった。これは、逃げて正解ってやつでは?我ながら天晴れ‼)


「...チッ。折角新しい道具が手に入ると思ったのに」


犬の勘は、冴えていたようで。もし、捕まっていたらどうなっていたことやら。



□■□■□■


しばらくして...


女は、走っていた。大切な家族犬が居なくなってしまったから。


「はぁ、はぁ。ど、こ行っちゃったの?」


女は、今まで犬と共に言った場所を巡っていた。何処かに居るかもしれないと、願って。


女は、最後の地点に走った。初めて散歩したときに最初によった公園、最後に行った思いでの公園へと走っていた。


「.......ッ‼※※‼」


やっとの思いで見つけた犬は...













トラックに轢かれて弾き飛ばされたところだった。


「※※!※※!※※‼なんで、起きて早く。私をおいていかないで。ひとりにしないで。※※だけが私の唯一の存在なのになんで」

「......わふ」


(ご主人、泣かないで。ご主人は、もう1人なんだよ。僕と言う縛りから解放されたんだよ。だから、笑って欲しいなぁご主人の最っ高の笑顔が最後のおねだりだよ)


「うぅ...あぁ。※※...もう聞こえないね。貴方の優しさを受け取ってあげられなくてごめんね※※」


女は、やっと今気づいた。犬がどれだけ女の事を心配して気遣っていたのかを犬が亡くなった後に...



□■□■□■


数年後


「※※!こっちにおいで」

「わん‼はっはっは」

「フフ元気だね今日も」


女は、やり直していた。仕事を変え、新しい家族を迎え、犬が幸せだと思える環境を作った。犬の事は、忘れまいと後輩犬にも同じ名前をつけた。違うとわかっているけど自分の最低さを忘れないと犬に誓った。

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