第5話 豊穣の儀

 燭台の灯りで見えてきたのは墨で色々な獣が描かれた壁画であった。


 よく見ればそれらの獣は踊っている物もあれば、絡み合い繋がっているものなど、一つも同じ物が無いように見える。


 それは実際には何もないのかもしれないが匂いを感じてしまう。幻臭というものなのかもしれない。

 

 僕はそれだけで酔いそうになっていた。


「これは何ですか?ここで何が起きるのですか?」


 僕の問いに二人は答えてくれなかった。それどころかオババに言葉を制されてしまった。


「始まるぞ。我々の神が降臨されるぞ!」


 その言葉に反応するように広間の中心の空気が重くなっていくようである。次第にそれは何かの形を形作り始めた。

 

 最終的にはそれは静かな笑みを称えた女神の姿になった。


 オババは深く頭を垂れると大きな声で女神の名前を呼んだ。


「偉大なる豊穣の女神ミヨノリよ、キム族のシュナの名においた感謝の言葉を伝えます」


 女神は静かに瞳を開くと、いかにも女神と言った声を発した。


「シュナよ、今年もあなたに会えたことを嬉しく思います。この度は珍しい者を従えてきたのですね。歓迎しますよ」


「ありがとうございます。この者はミヨノリ様と出会う運命にあると思い同行させました」


 僕は無意識に頭を下げていた。それは誰かに強要された訳では無いがそうするのが当然だと感じていた。


 オババはミヨノリに祝詞のりとを唱え、儀式を進めていった。

 祝詞が済むと、オババはメイと僕の方を振り返ると僕達に立つような言った。


「二人共、服を脱ぎなさい」


「「はい?」」


 僕達はどうしてなのか分からなく、素っ頓狂な言葉がハマってしまった。


「これまでは乙女一人で行うのが習わしだが、今回は奇跡の子が揃ったのだから本来の形で儀式を行える。儂はそれだけで幸せだ」


 僕にはオババの言っていることが分からなかった。どうやらそれはメイも一緒のようであるが、オババの気迫に押されて服を脱いだ。


 恥ずかしさから手で体を隠す僕に対してメイは堂々としている。直立しているが全身を覆った体毛がメイの恥部を隠していた。


「今から二人でまぐわい、お互いの体液をミヨノリ様に捧げるのだ」


「え〜〜っ!」


 メイは驚きで大きな声を上げた。でも僕にはオババが何を言っているのか分からなかった。

 まぐわいってなんだろう?


「メイさん、これから何するんですか?」


「あなた何も知らないの?・・・・。オババは私たちにここで身体を重ね、一つになるのよ。分かる?」


 僕でもやっと理解出来た。


「マジですか?僕にはそんな事出来ませんよ」


 なにかの冗談かと思ったがオババは本気のようだ。そんな目をしている。


 今まで動くことがなかった女神ミヨノリが口を開いた。


「これは神事です。二人共始めなさい」


 その言葉でメイは覚悟を決めたようで、ゆっくりと僕に近づいてきた。

 優しく僕の頬に触れると唇を合わせてきた。


 唇を塞がれ言葉が出せなかった。その後はメイの手が全身に触れてきた。


「お願い、あなたも私に触れて」


 その言葉で僕の脳が焼かれ、本能のままにメイの胸を揉み、舌を這わせた。


 それに合わせて、メイも僕の下半身を強く握ってきた。


 それは今まで感じたことのない快感であり、僕の口から小さな呻きが漏れた。


 導かれるように僕もメイの恥部に触れるとそこはしっとりと濡れていた。


「お願い。もう耐えられないわ」


 その言葉で僕とメイは一つになったが、二人共初めての経験であっという間に絶頂を迎えた。


 その時、壁画が輝き始め燭台の灯りとは違う明かりが広間を覆った。


「これでオルハンの豊穣は約束されました」


 女神ミヨノリの言葉にオババは恭しく頭を垂れた。


 僕とメイは体に力が入らず、へたり込んしまっている。


「儀式は終わったよ。二人共服を着なさい」


 オババは安心した様子である。


 メイはフラつきながら身を整え始めた。僕はまだ立ったままの物を諌めるように服を着た。


 僕の準備が済む頃には広間の壁画の輝きも消え、広間は燭台の灯りだけになった。


「女神ミヨノリよ、私は年を取りすぎました。今回の儀でこの役目から身を引こうと考えています」


「そうか、それは寂しいな。だが、シュナよ長い間ご苦労だったな」


 女神の労いにオババは涙を流した。


「私がミヨノリ様に始めたお会いしてから長い時がたちましたが、あの日の事を忘れたことはありません。もう会えないのは寂しいですけど後悔はありません」


「そうだな。それで次の祭司は決めておるのか?」


 オババは顔をこちらに向けた。


「次からはこのメイに祭司の役目を任そうかと考えています」


「私が祭司ですか?」


 オババの言葉にメイは驚きを隠せなかったようだ。手をワタワタと揺らしているがメイは断るつもりはないようだ。もしかしたらその覚悟が出来ていたのかもしれない。


「そなたなら良い祭司になれるでしょう」


 そう言い終わるとミヨノリの体の輪郭がぼやけ始めた。


「キム族の民に幸あらん事を。そして旅を続ける少年よ、あなたの旅の終わりで良い答えが出る事を願っています。傍らの者との縁を大切にしてください」


 そう言い残すとミヨノリは現れた時と同じように消えていった。


「儂らも帰るとしようか」

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