第26話 買取
「展開……」
ボクは自分が入れそうなほど大きな時空間を展開すると、そのまま時空間の中に一歩、足を踏み入れた。
靴の裏には懐かしいちゃんとした地面の感覚が返ってくる。
成功したかな?
ボクはそれを確かめるために時空間の中に入り込む。
真っ黒な時空間の向こうは、夕暮れに赤く染まった城塞都市エスピノサが見える東の森へと続く一本道だった。
「成功だ……!」
ボクがやったのは、二点間の時空を繋げることによるワープだ。これでボクは、自分が知覚した空間へのワープが可能になった。自分が行ったことがある場所しか行けないけど、かなり便利な力だね。消費する魔力も少ないし、これからは積極的に使っていきたい。
「咄嗟の脱出手段としても使えるのかな? 後で使い道も考えてみよう。それよりも、まずは……」
ボクは展開していた時空間を消し、城塞都市エスピノサを目指して歩き始める。
まずは冒険者ギルドだね。手に入れた討伐証明部位や財宝の買取を頼まないと。
「ソーセージマルメターノうっめー!」
「このソースを付けてみな。飛ぶぞ?」
「どれどれ……。あびゃあああああああああああああああ!?」
「知ってるか? 『旋風』の奴らが東の森の深部でドラゴンを見たって騒いでたってよ」
「ドラゴンか。そんな幻想生物、本当に実在するのか?」
「我らは『上様』! パーティメンバーを募集している! 我こそはという者は、名乗りを上げよ!」
「はい!」
「頭が高いわ!」
冒険者ギルドの大きなドアを開けると、途端に中にいる冒険者たちの話し声が聞こえてきた。
今日も冒険者ギルドには大盛況だ。
ボクは騒がしい冒険者ギルドの中、買取カウンターへと急いだ。
笑顔を浮かべた受付嬢さんがボクを見て口を開いた。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「買取をお願いします。ゴブリンとオーク、ジャイアントスパイダーとジャイアントセンチピードの討伐証明部位と……」
ボクは時空間から一つの財宝を取り出した。黄金の腕輪だ。
「これは……!」
「こんな感じのが、あと五百点ほどあります。こちらの買取もお願いします」
「少々お待ちください!」
慌てた様子で冒険者ギルドの奥に向かって走って行く受付嬢さん。
そして戻ってくると、かなり大口の取引になるからか、ボクには個室が用意され、お茶まで入れてくれた。
「ここに買取を希望する品物を出していただけると助かります」
差し出されたのは、いつもの銀色のトレイではない。赤いビロードが敷かれた高級そうなトレイだ。
ボクは時空間を展開すると、中から一つずつ金銀財宝を取り出していく。
「ま、まだあるんですか!?」
「まだほんの一部ですね」
「一部……!?」
受付嬢さんが慄いたような表情をしていた。
「いったいどこで手に入れたんですか!?」
「ゴブリンの巣穴ですね」
「攻略されたんですか!?」
「はい」
「それは……『タイタンの拳』の方々と……?」
「今回はソロですね」
「ソロ!?」
よく驚く受付嬢さんだね。
『荷物持ち』のボクがソロで攻略したというのが信じられないのだろう。
まぁ、気持ちはわかるよ。ボクだって少し前までこんなことができるとは思ってもみなかったから。
やっぱりボクに気付きをくれたセシリアに感謝しないとね。
ありがとう、セシリア!
「少々お待ちください! あ、品物はここに出しておいてくださいね」
そう言って受付嬢さんは部屋の外に飛び出していった。
どこ行くんだろう?
そんなことを思っていたら、今度はエプロンを着けたゴツイ背格好のお兄さんが部屋に入ってきた。スキンヘッドのナイスガイである。
「ほう? ジャイアントセンチピードを倒したってのはお前だったのか、ペペ」
「ホセさん! お世話になってます!」
ボクは立ち上がってホセさんに一礼する。
ホセさんは、昔ボクにエスピノサ近辺に出現するモンスターの解体の仕方を教えてくれた恩師だ。ホセさんのおかげで、ボクは今回ジャイアントセンチピードの素材を余すことなく解体することができた。
「ペペが持ってきたってことは、期待してもいいのか?」
「どうぞ、見てください」
ボクは時空間からジャイアントセンチピードの牙と外骨格を取り出すと、ホセさんに見せる。
師匠に自分の捌いた素材を見せる。緊張の一瞬だ。
「ほう? なかなかよくできてるな。さすがは俺の一番弟子だ」
「ありがとうございます!」
やった! 褒められた!
「これなら買取価格にも色を付けられるぜ。あとはジャイアントスパイダーの素材もあるんだろ? 見せてくれよ」
「はい!」
それから、モンスターの素材や討伐証明部位を渡すと、ホセさんはニヤリと笑って部屋を出て行く。
その時。
「ペペ、冒険者に疲れたら、いつでも解体所に来いよ。俺が面倒見てやっからよ」
「ありがとうございます! でも……」
ホセさんの言葉は、嬉しい申し出だった。
でも、ボクにはもう新たなパーティメンバーがいる。
「野暮言っちまったみたいだな。忘れてくれや」
「いえ、嬉しかったです」
「じゃあな、これからも解体を忘れるんじゃねえぞ?」
「はい!」
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