第18話 武器
「ふぅ……」
ジメジメとした空気の中、一つ息を吐く。
ボクの足元には、まるで顔を鋭角に削られたように消失しているゴブリンの死体が転がっていた。
しゃがんでゴブリンの右耳を切り取る。生ぬるい体温は何度触っても気持ちが悪い。
もう何度、夜の森での戦闘を経験しただろうか。もうかなりの数のゴブリンとオークを倒した気がする。
でも、ゴブリンとオークなんていくら倒しても大した討伐報酬にならない。金貨百枚なんて夢のまた夢だ。
「やっぱり、もっと奥に潜らないとかな……」
奥に潜れば、もしかしたら高額で売れるモンスターに遭遇できるチャンスがある。
だが、森の奥に潜ればそれだけ危険が高まることを意味していた。
「……なんとかなるといいけど」
少し迷ったけど、ボクはもっと森の奥に潜ることに決めた。判断を下せたのは、今まで軽々とゴブリンとオークを倒せてきたことが大きい。
「だいぶ、使い方もわかってきたし、戦術もできた」
今まで、ボクは決めた場所に真っ黒な空間を生成するだけだった。
でも、今のボクは違う。
もう自由自在と言えるほど真っ黒な空間を動かせるようになったし、この空間の力を利用した戦術も確立しつつあった。
一つ目は、ソード。
これは、手の延長線上に真っ黒な空間を展開し、その鋭利な切断能力で文字通り剣のように敵を切り裂く。
接近戦ではかなりお世話になっている。今のところ切断できなかったものはないので、かなり頼もしい。
二つ目は、ショット。
これは、だいたいボクの拳大の大きさの真っ黒な空間を高速で飛ばし、モンスターにぶつける攻撃だ。命中すると、モンスターは真っ黒な空間の大きさの穴が開く。
発射する真っ黒な空間の大きさは自由に決められるのが利点だ。
そして、真っ黒な空間を線上にして発射すると、まるで飛ぶ斬撃のような攻撃も可能である。
かなり自由度が高い。ボクが使える唯一の遠距離攻撃だけど、アイディア次第では化ける性能を持っていると思う。
そして三つ目は、シールド。
これは、敵の攻撃をそのまま真っ黒な空間に入れてしまうことだ。
ゴブリンの奇襲を受けた時、咄嗟に真っ黒な空間を展開したら、ゴブリンの棍棒は真っ黒な空間に呑み込まれていき、ボクまで届くことはなかった。
咄嗟の防御手段としてはかなり信頼が置けると思う。
今のところ、よく使っているのがこの三つの能力だ。
近接攻撃、遠距離攻撃、防御、自分で言うのもアレかもしれないが、ボクの魔法がこんなに便利だとは思わなかった。変わるきっかけをくれたセシリアには感謝しかないね。
しかもこの魔法、底が見えない。
今までに切れなかったものはないし、防げなかった攻撃もない。限界があるのかも不明だ。
「ボクの魔法は空間を作ったり、空間内の時間を操ることだよね? 空間の狭間に触れると、物体は切れる。たぶん、空間が違うから切れるというよりも分かれるという表現がいいのかも?」
例えば、ここにニンジンがある。これを空間の狭間に触れさせると、真っ黒な空間の中に入ったニンジンと、そのまま外の空間に残ったままのニンジンに分かれると思う。
これが、空間の狭間でものが切れる原理だと思うのだけど、詳しくはわからない。
まぁ、原理はわからないけど、魔法として使えるから問題ないと言えば問題ないのだけど、ちょっと気になるね。
「それも考えるのは後か……」
ボクはゴブリンとオークの右耳を回収すると、森の奥に向かって歩き出す。
「ここから先は木の上のにも注意しないと……」
ここから先は、ジャイアントスパイダーの生息区域だ。
ジャイアントスパイダーは、その名の通り大きな蜘蛛で、その大きさは人間よりも大きい。ジャイアントスパイダーは、樹上から獲物に向かって落ちてきて狩りをおこなうため、樹上にも注意が必要だ。
ただでさえ見通しが悪い夜の森。しかも、光源は松明一本だけ。そんな状態でジャイアントスパイダーを見つけるのは難しいかもしれない。
でも、ボクには秘策があった。
「よっと」
ボクは、頭上に真っ黒な空間を展開すると、そのまま歩き出す。
これで、ジャイアントスパイダーに襲われたとしても、致命の一撃は避けられると思う。
「もう少し、広く展開しておくか」
頭上に展開された真っ黒な空間は、まるで深淵のように底が見えない。こちらから樹上を見ることもできないが、ジャイアントスパイダーからもボクの姿は見えないはずだ。
たぶん、これで大丈夫だろう。
そんなことを思っていた矢先、突然前方にズシンッと大質量が落ちてきた。
「へあっ!?」
茶色の硬質な体に濃い緑の斑点を持つ大きな蜘蛛のモンスター。ジャイアントスパイダーだ。
だが、どこか様子がおかしい。ピクピクと足を動かしているが、まるで動き出す気配がない。
「あ……!」
そして、ボクは気が付いた。ジャイアントスパイダーの頭部がないことに。
おそらく、松明の明かりを目印にボクを襲おうとしたのだろう。
だが、ボクが頭上に展開した真っ黒な空間に触れて頭部が切断されてしまったのだ。
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