第15話 嘲りと決意

 休憩の後もボクたちはゴブリンとオークを狩り続けた。


 もうかなりの数を狩ったと思う。これは討伐報酬も期待できるね。


 そしてボクたちが驚いたのは、オーク袋の中に四角い獣人金貨が入っていたことだ。


 獣人金貨は、主に人型のモンスターの中で流通している貨幣の一つである。しかも、エスピノサで使われている金貨と一対一で交換もできるでの、金貨を拾ったに等しい。


 まさかオークが金貨なんて持っているとは思わなかったので、臨時報酬としてはかなり嬉しい。


 それからボクたちは城塞都市エスピノサに戻り、冒険者ギルドまで帰ってきた。


「っぱソーセージマルメターノは最高だぜ!」

「エールで流し込んでみな。飛ぶぞ?」

「聞いたか? 『タイタンの拳』がついにマジックバッグを買ったんだってよ」

「最近、ゴブリンどもが多くねえか?」

「初心者どもは何やってんだかねえ」


 冒険者ギルドの扉を開けた途端、ガヤガヤと飲食スペースにいる冒険者たちの話し声が聞こえてくる。


 その中の一人がボクを見て嘲るような笑みを浮かべた。


「お! 『腰巾着』様がお帰りじゃねえか。どうだ? 今日はモンスター倒せたか?」

「無理だろ。だって『荷物持ち』だぜ?」

「そいやあ知ってるか? あいつ、ついに『タイタンの拳』にも見捨てられたらしいぜ?」

「マジかよ。ウチのパーティに来るか? 無論、報酬は出さないがなあ」

「ひでえ!」


 ボクを揶揄するような無数の声。


 まぁ、いいんだ。慣れっこだし。


 そう思っていたのに――――。


「おい!」


 威嚇するような鋭い声をあげたのは、アベルだった。


「お前らはペペのすごさをわかってねえ! こいつは今日、オークを倒したんだぜ!」

「アベル……!」


 正直、始めはアベルと上手くいくかわからなかった。『荷物持ち』だと、モンスターと戦えない臆病者とも言われた。


 でも、アベルはボクを仲間として本気で認めてくれたんだと実感した。


 見れば、怒りからか恐怖からか、アベルの体は小刻みに震えていた。相手はアベルよりも年上のベテラン冒険者たちだ。自分の意見を通すのも怖いはず。


 なのに、アベルはボクのために怒ってくれている。


「ああ? オーク? んなもん、ギフトがなくても普通に倒せるだろ?」

「後輩に良いところを見せようとがんばったのか? 捨てられないように必死だな」

「まあ、お前たちもそのうち気が付くさ。そいつはどうしようもない臆病者だってことがな」

「ちげえねえ!」


 そう言ってゲラゲラと嗤う冒険者たち。


「こいつら――――ッ!」


 頭に来たのか、アベルがノッシノッシと冒険者たちに向かって歩き出す。


「ちょ、ちょっと待った! アベル、落ち着いて!」


 慌ててアベルを後ろから羽交い絞めにするクレト。


「放せ!」


 なおも暴れそうになっているアベル。ボクはその手を取ってアベルの目を見て言う。


「ありがとう、アベル。ボクはキミの気持ちだけで嬉しいよ」

「だが……。あーもう! ペペ、すまなかった!」

「え?」


 突然、クレトに羽交い絞めにされたまま頭を下げるアベル。


「どうしたの?」

「思い出したんだ。俺も、ペペの悪い噂を聞いただけでそれを信じて、実際にペペの能力も見てないのにペペをバカにした。本当にすまなかった!」


 深く頭を下げるアベル。


 ボクの心はもう決まっている。


「いいんだ。ボクの悪い噂も事実だったしね。パーティメンバーはお互いに命を預け合うんだ。そこに信じられない者を入れたくないアベルの気持ちはわかるから。でも、謝ってくれてありがとう。こんなボクでもパーティメンバーの一員だって認めてくれる?」

「認めるに決まってんだろ! 俺たちは仲間だ!」

「その言葉だけでボクは救われるんだ。ありがとう」

「おうおうおう! 美しき友情ってやつか?」

「『腰巾着』の奴、上手くやりやがったなあ!」

「次はあのパーティに寄生するんだろ? まったく、嫌だね寄生虫は」


 はやし立てる周りの冒険者たちの声もまったく気にならなかった。


 でもその時、神官服を翻してセシリアがボクたちの前に出る。


「皆さんのバカにしているペペさんですが、皆さんよりも強いですよ?」


 その瞬間、冒険者ギルドに沈黙が下りた。


 だが、次の瞬間――――。


「だははははははははははは!」

「げはは! こりゃ傑作だ!」

「がははははは! 『腰巾着』の奴、よっぽど上手くやったんだな!」

「見る目がなさすぎるぜ! お前ら、お似合いのパーティだよ」


 一斉に生じたのは笑い、嗤い、嘲り。


 ボクのために声をあげてくれたセシリア。だが、ここに集まった冒険者の誰もが嗤っていた。


 ボクはなにを言われたって平気だ。慣れているというのもあるし、こんなボクでもパーティメンバーだって認めてくれるパーティがあるから。


 でも、ボクのせいでセシリアまで嗤われている。そのことがただただ情けなくて、辛かった。


 だから、ボクは決心した。


 セシリアの言ったことを本当にしてしまおう。今のボクは弱い。でも、いつの日かセシリアの言った通り、強い冒険者に。最強の冒険者になってやる!

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